前回、学校薬剤師が行う保健室(「学校薬剤師と保健室…学校で薬を使うという」)と理科室(「学校薬剤師と理科室…薬剤師が身近な科学者であるために」)の点検についてお話しいたしました。
今回は給食調理室です。
「学校給食法」で定めることとされている「学校給食衛生基準」には、「衛生管理上の問題がある場合には、学校医又は学校薬剤師の協力を得て速やかに改善措置を図ること」「学校薬剤師の協力を得て、定期に検査を行うこと」と明記されています。
主な検査項目についてお話しいたします。
点検①記録簿
万一食中毒が発生した時の原因究明に生かされるよう、日常点検を記録・保管しています。
調理前と調理中の室温や湿度、冷蔵庫・冷凍庫の庫内温度、使用水の残留塩素濃度等が記録されています。
その他の食中毒の対策として、原因究明の為に原材料及び調理済みの食品も専用の冷凍庫に2週間以上保存し記録しています。
また、責任者を決めて配食30分前に検食し、結果を記録します。
点検②設備
防鼠・防虫の設備に不備(防虫網の破損や扉が常に開放されていないか等)や排水・採光・換気の状態、壁や天井のカビの有無を点検します。
点検③残留塩素濃度測定
検査時に水質基準に適合(0.1mg/L以上)しているか測定しますが、調理前に毎日測定し記録しています。直結水道であれば、まず間違いなく基準に適合した残留塩素濃度を確認できるのですが、受水槽・高置水槽を経由する水の場合は残留塩素濃度が基準を満たさない場合があります。使用頻度の低下等で、水槽内の貯留時間が長くなり残留塩素が喪失するからです。(「学校のお水…学校薬剤師は飲料水の検査をします」)
基準の残留塩素濃度が確認できるまで放水し、確認できてから調理を開始します。
点検④食器残渣検査
食器のデンプン性残留物と脂肪性残留物の検査です。
デンプン性残留物は理科の実験でお馴染みの「ヨウ素デンプン反応」で視覚的に確認します。茶色のヨウ素液がデンプンに反応して紫色になる現象です。
脂肪性残留物はエタノールが脂肪酸に溶け込む性質を利用して確認します。赤色のパプリカをエタノールを混和させ、視覚的に判定します。
いわゆる「洗い残し」の評価ですが、食器の傷の凹みにデンプンや脂肪が入り込んでしまうと洗浄しても取り除くことが難しくなってきます。食洗機にかける前にお湯で作った洗浄液に浸け置きする、傷を最小限にする為に手洗いを避ける等の工夫をお伝えしますが、最終的に新しい食器との交換をおすすめすることもあります。
点検⑤その他
大腸菌検査等、地域の事情にあわせて行われている検査もあります。
食中毒予防の三原則は「細菌をつけない(清潔、洗浄)」・「細菌を増やさない(迅速・冷却)」・「細菌をやっつける(加熱、殺菌)」です。ご紹介してきた点検項目もこの三原則を意識したものになっています。
給食調理室の点検項目をまとめてみました。
緊張感丸出しで出迎えてくださる調理員さんもいらっしゃいます。ですが、学校薬剤師が行う検査は不備を糾弾する為のものではありません。不備な箇所は調理員さんも作業をする上で困っていることであったりします。特に設備上の問題点は「改善の為に、学校薬剤師さんからも声をあげてください」と言われる事も多いです。
調理室の水道は直結水道でドライシステム(従来の床に水を流して作業するのではなく、床を乾いた状態で使用する方式)である方が衛生的、照明器具やエアコンの台数が適正である方が安全な作業ができる…当然です。
調理室に限ったことではありません。
少子化の時代に合わせて貯水槽のサイズを変えた方が良い、今の時代なら直結水道で、パソコンを使うなら照明器具の増設も考えた方が良い、黒板灯も設けるべき…。
歴史ある学校では、環境衛生の課題が沢山あります。子ども達の為には全てをクリアしたいところですが、残念ながら予算に限りがあります。
限られた予算の中で優先順位をつけて対策をする、すぐに根本的な改善が望めない場合は次善の対策を考える…その為の判断に検査報告を使っていただければと私は考えています。
時代の流れでしょうか、最近は「子ども達が学校の給食で初めて目にしたり口にしたりする食材も多い」と耳にしました。
コロナ禍で何かと制限の多い給食の時間、それでも子ども達の「わーい」や「へぇ〜」が増えることを願っています。
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