熱中症にならないために気をつけたい意外?な3つのこと

薬局から

異例の早さで梅雨が明け、各地で猛暑日が続いています。
熱中症で救急搬送・・・といった報道が度々なされています。
熱中症は、この時期に学校を訪れると(「学校の薬剤師」)相談や質問される話題の一つでもあります。
既にどこかで耳に目にされていると思いますが、今回は別の視点(になるかな?)で熱中症予防のお話をいたします。

朝ご飯をしっかり食べる!

朝ご飯には、寝ている間に消費したエネルギーの補給・脳を活性化させる・起床時には下がっている体温を上げる・生活リズムを整える…等、様々な役割があります。とても大事です。

そして、熱中症対策にも非常に大事です。

実は、身体に入ってくる水分の約半分は食物の水分と食べ物が代謝されることで生まれる水分(代謝水)です。水分補給は飲料水からだけではないのです。
特に水分が多く含まれる野菜や果物は、脱水症対策に適しています。

朝ご飯を食べずにコップ一杯の水だけ飲んで登校後に体育の授業…とても危険です。

「最近食べる量が減った」という方(お年寄りに多い)も同様です。
低栄養状態も気になりますが、必然的に食べ物からとれる水分も少なくなり、脱水症状を起こしやすいので要注意です。

熱中症による脱水症状を防ぐ為、規則正しい食生活を心がけましょう。

”水”のがぶ飲みは水分補給ではない!

薬局でも「水分補給して下さいね」とお伝えすることが多いのですが、この「水分」は「(ただの)水」ではありません。時と場合により「水分」の内容は変わります。

日常生活で健康に問題のない人が摂る水分は、水やお茶(ノンカフェインのもの)で充分です。
汗をかいた時は、水分と一緒に失われるナトリウムやカリウムの補給にスポーツドリンクを飲むのも良いでしょう。ただし、スポーツドリンクは糖分が多いです。糖分が気になる場合、麦茶(にはカリウムが含まれています)に塩(ナトリウム)を一つまみ入れたものを飲むと良いでしょう。

汗を多めにかいた場合は注意が必要です。
先にも書きましたが、汗をかいた時に身体から失われるのは水分だけではありません。ナトリウムやカリウムといった電解質も一緒に失われます。
そうした状態で水だけを大量に摂ってしまうと、電解質の濃度が下がってしまいます。
体内では、細胞の内外で電解質の濃度が同じになるよう調節(浸透圧保持)されています。
電解質の濃度が下がると、身体は濃度を維持する為に水を排出するようになります。水だけを摂取してしまうと尿量増え、逆に脱水を増長してしまうのです

喉が乾いて(既に脱水が始まっている状態です)欲するままに水をガブ飲み…危険です。

このような場合は、電解質を含んだ水分が速やかに体内で吸収される必要があります。体内における水分の主な吸収部位は小腸です。小腸の絨毛からナトリウムやブドウ糖が吸収される際に水も一緒に吸収されるのです。そして、ナトリウムとブドウ糖の濃度と比率で水の吸収効率が変わってきます。水の吸収効率が最も良くなるようにナトリウムやブドウ糖の量を調整している飲料が経口補水(ORS)です。

スポーツドリンクはORSに比べると、ナトリウムの量が少なく、ブドウ糖の量が多いかブドウ糖の代わりに砂糖や果糖、人工甘味料が使われています。大量の発汗や下痢、嘔吐で脱水が進んだ状態では水分の吸収が進まずに回復に時間がかかると考えられます。

ORSで有名なのはOS-1オーエスワン」(大塚製薬)ですね。
「脱水症の悪化防止・回復、脱水症回復後の水・電解質の補給、維持」の表示が許可されている病者用食品です。経口補水療法を記した各国のガイドラインの基準を満たすナトリウム量が含有されています。
ですが、正直美味しいものではありません。塩味を強く感じます。これを美味しいと感じる場合は、相当脱水が進んでいると思います。
特にお子さんには不人気…。


ナトリウムの含有量は少ないのですが「アクアソリタ」(味の素株式会社)の方が飲みやすいです。脱水の程度が少ない状態(体重の3%未満の水分喪失)なら、こちらで充分です。脱水の状態が進んでからOS-1を嫌がる子供に飲ませるより、早い目に(外遊びで汗をびっしょりかいた、発熱に気づいた、下痢が始まった…等)アクアソリタを飲ませてあげた方がいいかもしれません。

脱水の状態が進み(体重の3%以上9%未満の水分喪失、唇や舌の乾燥も顕著になります)、ナトリウム含有量の多いOS-1を使った方がいい場合、ゼリータイプの方が塩味を感じにくく飲みやすいそうです。子どもに多いヘルパンギーナやプール熱等、口腔粘膜や咽頭に炎症やを生じる場合もゼリータイプの方が痛みを感じにくいです。嚥下障害のある方もゼリータイプが良いです。
また、今月に入ってOS-1のアップル風味が発売されました。
リンゴの風味で塩味がカバーされている・・・と私自身は感じました。(庭の草抜きの後に飲んだので、美味しく飲めたのかもしれません。)

ちなみに体重の9パーセントを超える水分が失われる重度の脱水では、意識は混濁し、自力で水分を摂ることは難しくなります。救急車を呼んででも早急に医療機関へ受診すべきです。

経口補水液 ORS
左からアクアソリタ・
OS-1アップル風味・
OS-1ゼリー

水分補給は水だけでなく、状況に応じて最適な飲料をこまめに摂りましょう。
初期の発汗にはスポーツドリンク、大量の発汗(「したたるような汗」「滝のように流れる汗」と表現されることが多いです)には経口補水液…と覚えておきましょう。

正常性バイアス・同調性バイアスを自覚する!

熱中症は気温が高い時に起きるとは限りません。湿度や風の有無、日差しも大きく影響します。
熱中症の危険度を判断する際は「暑さ指数(WBGT)」という指標を使います。暑さ指数は「気温」(乾球温度)・「湿度」(湿球温度)・「輻射熱」(黒球温度)で求められます。
この暑さ指標が28度以上(厳重警戒レベル)になると熱中症のリスクが高まります。ですが、28度未満なら安全という訳ではありません。
熱中症のリスクは先にあげた環境因子だけではないからです。
年齢(高齢者や乳幼児)、持病や体調不良等の個人の状態、激しい運動や慣れない作業等の行動の内容も関わってきます。
こうした様々な要因が絡んで引き起こされる熱中症は、誰がなってもおかしくないのです。

「自分は大丈夫」「これぐらいなら大丈夫」・・・この思い込みは危険です。

人は予期しない事態に遭遇した時に「あり得ない」「大丈夫だろう」と思い込み、誤って日常の延長と捉えてしまうことがあります。
これが「正常性バイアス」です。自然災害の避難の遅れでも問題となります。熱中症でも然りです。

「正常性バイアス」と同様、災害時の避難の遅れや熱中症を引き起こす心理に「同調性バイアス」があります。
自分以外の大多数に合わせて「皆と一緒だから大丈夫」と捉えてしまうのが「同調性バイアス」です。

児童・生徒が熱中症で学校から病院へ搬送されるケースは、暑さ指標が31度(危険レベル)を超えるような日より28度以下の日の方が多いかもしれません。
危険レベルだと運動は原則中止となります。誰もが、つまり大勢が「危険」と判断して熱中症リスク回避の行動がとれます。
そうでない日は、どうでしょうか。


「他の先生も何も言わないし、大丈夫だろう」「皆も頑張っているのだから、自分も(中高生の部活動であるのでは)」・・・危険です。

本題からずれますが、学校で子ども達が教育を受ける大前提は「安心・安全な場であること」です。
命の危険をさらしてまでしなければならない教育など一切ないと、私は思います。

「正常性バイアス」・「同調性バイアス」は人が日常を生きていく上で必要な心理でもあり、悪い事ばかりではありません。
非常時には好ましくない働きをする2つの心理を知っておくことが熱中症予防につながります。

まとめ

熱中症予防の為に頭に入れていただきたい事をまとめました。

朝ご飯をしっかり食べる!
→身体に入る水分の半分は食べ物から。野菜や果物を。
水分補給の方法に注意!
→こまめに適量を。普段は水やお茶、初期の発汗はスポーツドリンク、大量の発汗は経口補水液。
正常性バイアス・同調性バイアスを自覚する!
→「これぐらいなら大丈夫」「皆と同じだから大丈夫」は大丈夫でない。

笑顔で猛暑の夏を乗り切ることができますように・・・。

コメント