学校のプール、今・昔 〜学校薬剤師の視点から〜

学校薬剤師

プールの季節となりました。
以前(「学校のプール」)にもお話しましたが、学校薬剤師はプールの水質や設備の点検もします。

そんな中で、私が子供の頃や息子が小さかった頃に比べて「変わったよね」と感じる事がいくつかあります。
今回は、時代の流れで変わっていく学校のプールの有り様のお話です。

今・昔①:腰洗い槽がない?

「腰洗い槽」、ご存知でしょうか?
プールの衛生状態を保つ為に、高濃度の残留塩素(50-100mg/L)で調整された水に浸かるスペースのことです。腰まで浸かることにより、足やお尻に付着している汚れや細菌類がプールに持ち込まれないようにしています。

ですが、新設の学校では腰洗い槽はまずないです。そうでないが、使われていない学校もあります。
腰洗い槽の設備が義務づけられていた当初に比べ、プールの循環ろ過技術が向上し、自動で塩素剤が注入される装置でプール水の衛生管理がしやすくなりました。腰洗い槽を使わなくても、プール水の衛生面での安全が担保できるようになったのです。厚生労働省では2001年に遊泳用プール(いわゆる営業用ですね)の衛生基準の中で腰洗い槽の設置義務の項を削除しています。
20年も前の話です。にも関わらず、全ての学校から腰洗い槽が消えた訳ではありません。

何故でしょうか。
それは、学校のプールは「学校保健安全法」における「学校環境衛生基準」に則って運営されているからです。
こちらは文部科学省、先ほどは厚生労働省・・・管轄が違うのもどうかとは思いますが、厚生労働省が管轄している営業用のプールと違い、文部科学省が管轄するプールには浄化設備のないプールがあります。
勿論、今や殆どの小・中・高等学校のプールには浄化設備(循環ろ過装置や塩素剤の連続注入)があり、学校環境衛生基準でも腰洗い槽は必須ではありません。
ですが、浄化設備がないプールでは「汚染を防止する為に1週間に1回以上換水し、換水時に清掃が行われていること。その場合、腰洗い槽を設置することが望ましい。」とされています。


浄化設備のないプール、つまり水を入れ替えるだけのプール・・・。
そう、幼稚園・子ども園のプールです。
組み立て式やビニール製の簡易用プールが多いです。腰洗い槽の代わりに、大きなタライに塩素剤を溶かして、お尻をつけるようにして消毒する所もあります。
小さいお子さん自身でのシャワー洗浄は無理があります。大腸菌やアデノウイルスは糞便中に排出されます。園の先生方が一人一人お尻を洗うには時間がかかり過ぎてしまいます。
不十分な洗浄でプールに入ってしまうと、塩素が消費されてプールの残留塩素濃度が低下してしまいます。ただでさえ天気が良く気温の高い日は残留塩素濃度が低下しやすい状態です。基準の残留塩素濃度に満たない状態では、感染症がまん延する恐れさえあります。
今も昔も、腰洗い槽が必要な場合があるのです。
ただし塩素は皮膚刺激が強いので、皮膚の弱いお子さんには塩素剤をよく洗い流すか、腰洗い槽を使わずシャワーでよく洗う等、個別の対処が必要です

今・昔②:洗眼器がない?

「洗眼器」、眼を洗う水栓です。蛇口をひねると噴水のように水があがって、その水で目を洗います。
昔はプールの傍に必ずあったものですが、今は見られなくなりました。

眼科学校保健」の資料によると、今は、症状(しみたり、異物感があったり)がなければ洗う必要はないとされています。水道水やプール水の塩素が眼の角膜上皮を損ねたり、過度な洗眼によりバリア機能が失われてドライアイを助長するともいわれています。
ただし、眼の中に残留する塩素や微生物を洗い流すという一定の効果も否定できないので、「弱い水流で数秒の洗眼は差し支えない」といわれています。数秒を超える水道水による洗眼は好ましくなく、人工涙液の点眼等を考慮すべきですが、眼科医会はむしろゴーグルの使用を推奨しています。
ゴーグルの使用については、水慣れの指導(水難事故への備えにもつながります)では不向きとの声もあり、各々の教育現場で臨機応変に対応されているようです。

今・昔③:水泳帽、貸し借り厳禁

これは、昔も好ましいことではなかったはずです。
改めて強くいわれるようになっているのは「アタマジラミ対策」の為です。
「今どき、アタマジラミなんて…」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。私もそうでした。

日本では戦後の混乱期にシラミがまん延していましたが、有機塩素系殺虫剤(DDTやγ-BHC)の大量投与により、昭和20年代後半には国内からほぼ消失していました。しかし、昭和46年にDDTやγ-BHCの製造販売が禁止されたこと、海外交流の機会が増えたことからシラミの感染が再びみられるようになり、今に至っています。
しかも近年では、薬剤抵抗性のアタマジラミも出現しています。決して「昔のこと」ではないのです。

そこで「水泳帽貸し借り厳禁」です。
アタマジラミは飛んだり跳ねたりしません。髪の毛や繊維(水泳帽も)にしっかりつかまっています。
しっかりくっついているので、水中でプカプカ浮きながら他の子の頭に移動することはありません。
水中でアタマジラミに感染することはないのです。
その証拠に・・・ではないですが、「アタマジラミの治療を開始していればプールに入って構わない」というのが、日本臨床皮膚科医会・日本小児皮膚科学会の統一見解です。(スイミングスクール等、個別の内規で禁じられていることはあります。)
ただし、タオル・水泳帽・ヘアブラシ等の貸し借りはしてはいけません。ここから感染していく可能性が高いからです。

学校によっては水泳帽を忘れた子どもの為に貸し出しをしているケースがありますが、使いまわしは好ましくありません。貸し出しをする場合は、60度以上のお湯に5分以上浸す(これで駆除できます)等の対処が必要です。

もう一つ、アタマジラミで注意していただきたいのは「偏見」です。
清潔さや免疫力に関係なく、アタマジラミは接触すれば感染します。子ども達は頭が触れる機会が多いので、感染が広まりやすいといわれています。
感染した子ども達が心に傷を負わないよう、「アタマジラミがいた=不潔」ではないことを心にとめていただければと思います。

まとめ

学校のプールの「今・昔」をふり返ってみました。
学校の先生方から質問や相談の多い内容でもあります。

学校のプールで今も昔も変わらぬ事・・・。
それは、子ども達が楽しく、安全に水泳を通して成長していくことではないでしょうか。
学校薬剤師がそのお手伝いをできる存在になればと思っています。

※学校薬剤師は学校環境基準等を基に検査を行い、各学校の事情に応じて指導や助言を行います。
ここでのお話も一学校薬剤師が担当校での検査を行った際の限定的な見解が多分にあることをご留意ください。

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