学校薬剤師は学校の環境衛生試験をします。その中の一つに飲料水検査があります。
今回は、「飲料水検査って、何をしているの?」にお答えしていきます。
※学校薬剤師は学校環境基準等を基に検査を行い、各学校の事情に応じて指導や助言を行います。
ここでのお話も一学校薬剤師が担当校での検査を行った際の限定的な見解が多分にあることをご留意ください。
飲料水検査に行こう!
飲料水検査に行く時の持ち物です。人によって違うかもしれませんが、私の場合はこれです。
左から順番に・・・
①DPT試薬…遊離残留塩素を測定する試薬。遊離残留塩素濃度測定器は学校が所有しているものを使わせてもらうのですが、稀にある「試薬がない!」(新年度で校内が慌ただしい時など)という事態への備えです。
②ライター…細菌検査用の採水をする時に使います。
③ガラス容器…色・濁り・臭い・味を調べるのに使います。
④温度計…検査時の気温・水温を測定します。
その他の持ち物は、採水容器・クーラーバックと保冷剤です。
採水する検体数については、各校で変わります。1校で1セットではないです。
その訳をお話する前に、学校の給水設備について、お話させて下さい。
給水設備には3パターンあります。
(1)直結水道
原則として飲料水の供給者により水質検査が実施されていますので、「学校環境衛生管理マニュアル」では「定期検査の対象としない」とされています。(地域によっては水道設備管理と一緒に飲料水検査も行っています。)
(2)受水槽を経由する設備
水道水をいったん受水槽に貯留し、そこから各水栓へ供給します。
(3)受水槽・高置水槽を経由する設備
受水槽に貯留した水をポンプで屋上の高置水槽に送り、そこから各水栓へ供給します。
(1)は、基本1校1セットです。(2)は1受水槽あたり1セット、(3)は1高置水槽あたり1セットです。幼稚園などの小規模施設では(1)の場合が多いですが、小・中・高等学校で年季の入った校舎の場合はほとんどが(3)です。各校舎の屋上に高置水槽があるので、校舎の数だけ採水します。
飲料水検査には、現場で検査する項目と採水して検査センターで分析する項目とがあります。
主なものをご紹介します。
学校(現場)で確認する項目
配管中の古い水を出し切る為に、採水する水栓とその付近の水栓を開いて5-10分間放水します。
その間に水回りの衛生状態や排水の状態なども確認していきます。最近では水道水を飲む子供達が減っている(水筒を持参している)ので少なくなりましたが、水栓が上向きのままになっていることがあります。上向きのままですと、水が溜まり汚染の原因になります。水栓が下向きの状態であることを日常点検の中で確認してもらうよう、学校の先生方にお伝えいたします。
採水前に測定、確認する主な項目は次の通りです。
①性状
色がついていないか・水の中に浮遊物がないか(ガラス容器を持参するのはこの為です)、サビ臭・カビ臭等の臭いの異常はないか、味に異常はないか(美味い・不味いではないです)を確認します。
②気温・水温
共に、水質に影響を及ぼしやすい要因となります。
③遊離残留農薬濃度
DPT試薬を用いて発色(残留塩素で赤くなります)の度合いから視覚的に判断します。
基準は0.1mg/L以上です。
高置水槽が設置されている学校でしばしば問題になるのが、この遊離残留塩素濃度です。
受水槽に流入された時点では十分にあった遊離残留塩素濃度は受水槽や高置水槽に貯留している間に減少していきます。そして、貯留されている時間が長かったり、連休等で長時間使用されなかった場合は基準を下回る恐れがでてきます。
基準値の遊離残留塩素が確認できなかった場合は、さらに放水して測定します。基本的には遊離残留塩素が確認できるまで放水します。
・・・これが中々大変な時があります。長い間放水しても遊離残留塩素濃度が確認できない場合があります。2年前の一斉休校明けの検査の時もそうでした。(「学校薬剤師と新型コロナ」)
また、開校当初より児童・生徒数の減少している学校では、設定されている貯水量と使用量のバランスが崩れ、貯水容量に比べて使用量が少なくなっていることがあります。この場合も貯留されている間に遊離残留塩素濃度が低下してしまいます。
通常、受水槽の容量は1日の間に2回程度、高置水槽の容量は1日の間に10回程度入れ替わるよう設定されています。ですが、諸事情で使用量が少なくなってしまうと先にお話したような事態になってしまうのです。
残留塩素濃度が減少すると細菌の繁殖を抑制できなくなる恐れがでてきます。実際、一斉休校明けの飲料水検査で一般細菌が基準を超え、飲用禁止となり給水車に来てもらった学校もあったと聞いています。
空き教室が沢山ある学校(つまり児童・生徒数が当初よりも激減している学校)では、休み明けの放水や日常での遊離残留塩素濃度のチェックが大切になってくるのです。
それでも、遊離残留塩素濃度が検出されにくい時は、貯水容量を下げる・塩素付加装置を増設する・容量の少ない貯水槽に変更する・・・ことも検討すべきですが、予算のこともあり現実的には厳しいと思われます。
さて、いよいよ採水です。ちなみに採水する水栓は、給水系統の末端(通常、高置水槽がある場合は1階、ない場合は最上階)で行います。
不適切な採水で一般細菌等が混入してしまうと「飲用不適」と判定されてしまう場合があります。採水前に手指を清潔にすることは基本です。
採水に使う容器を蛇口から出る水で2-3回共洗いしてから採水しますが、細菌検査用の採水容器は別です。
採水前に蛇口を火焔で滅菌(ここでライターの登場です)し、直前に滅菌された採水容器のふたを開けます。この時も落下菌の混入を防ぐ為に容器を斜めに傾けて採水します。
細菌検査用の検体は5℃以下で保管しないといけないので、保冷剤の入れたクーラーバッグで検査センターまで運びます。
分析結果から確認する項目
採水した検体を検査にだし、後日送られてくる検査結果を確認します。
主な項目は次の通りです。
①pH
5.8-8.6(弱酸性~弱アルカリ性)と定められています。投入されている塩素剤等による影響により変化します。
②色度・濁度
色度5度以下、濁度2度以下と定められています。水に溶解又はコロイド形成する物質の混入度合いや水の濁り具合を示す指標です。
③塩化物イオン
200mg/L以下と定められています。高いと塩味を感じるようになり、味覚を損ねます。
④全有機炭素(TOC)
3mg/L以下と定められています。水中に含まれている有機物中の炭素量のことで、有機性汚濁の指標となります。
⑤一般細菌・大腸菌
一般細菌は100コロニー以下、大腸菌は検出されないことと定められています。塩素処理が行われている水道水では基準を超えることは考えにくいのですが、採水方法が不適切であったり、貯水槽内での貯留が長くなり残留塩素が消失してしまうと基準を超えて「不適」となることがあります。
最後に
学校での飲料水検査についてご説明しました。
水は人間が生きていく上で必要不可欠なものです。学校では水筒持参が主流になっていますが、給食の調理には欠かせません。
子ども達の学びの場である学校で「安全」を守るべく、環境衛生に目を向けていきたいです。
コメント