患者な薬剤師④ 〜息子の新型コロナワクチン接種編〜

薬局から

若い時分、ドクターとお話するのは問い合わせの電話対応やMR同行(製薬会社時代)であったり、疑義照会(薬局で←「薬剤師って…」参照)の時でした。
年を重ねるようになって、自分や家族が受診する際にドクターと話す比率が増えてきました。
当然、仕事での会話と患者やその家族としての会話は、話す内容も違えば、感じ方も違います。
今回は少し趣向を変えて?息子の新型コロナワクチン接種のお話です。

息子の接種券が届いた!

6月、新型コロナワクチンの接種対象年齢が16歳以上に引き下げられた…との報道から程なくして、市から息子の接種券が届きました。
対応早っ!でも、接種の日程については「後日お知らせ」と。
そりゃそうだ。当時、アラフィフの夫の接種さえ終わっていなかったのだから。
でも、「今すぐ接種できますよ!さあ、どうぞ~」と言われても喜べない自分がいたりして。

既に海外で心筋炎の副反応報告がありました。若い男性に多い傾向にあると。
重症化するリスクをもたない(であろう)息子に急いで接種させるよりも、様子をみたい・・・というのが正直な気持ちでした。

ワクチンや医薬品の使用を検討する際は、リスク(副作用や副反応)とベネフィット(有効性・有益性)を天秤にかけます。
個々の状況(年齢・基礎疾患・環境等々)で天秤の傾き方は違ってきます。

心筋炎に関しては新型コロナウイルス感染によっても発症する可能性があり、そのリスクはワクチン接種で心筋炎になる可能性よりも高い・・・というデータがあります。
そのデータだけとればワクチン接種の意義は充分あると考えられます。ただ、どちらのケースでも心筋炎の頻度は稀なのですが。

この「稀」という言葉も曲者です…。

例えば、コレステロールを下げる薬。
一時期、この薬の副作用が週刊誌で取り上げられ話題になりました。
「横紋筋融解症」という副作用なのですが、「コレステロールの薬で筋肉が溶ける!」と。
言葉通りの解釈なら確かに「筋肉が溶ける」なのですが、敢えて不気味さを与えなくても・・・と、雑誌の見出しを見て思いました。
横紋筋融解症は、身体を動かす骨格筋の壊死により筋肉痛や脱力を生じ、壊死した骨格筋細胞に含まれる物質が血液中に放出される事で腎障害を引き起こすこともあるので、安易に考えてはいけない疾患です。ですが、この疾患がコレステロールの薬の副作用により生じることは、ごく「稀」です。
週刊誌を読んで心配する患者さんに「注意が必要な副作用ですが、頻度は1万に1〜2人程度の副作用ですよ」とお伝えすると大抵の方は安心されます。確かに、稀な副作用のデメリットより、コレステロールを下げて動脈硬化を防ぎ心筋梗塞や脳梗塞を予防できるメリットの方が大きい(勿論、年齢や合併症等の個人差はありますが)ケースが多いです。

でも、自分が1万人の中の1〜2人にならないとも限らない訳で。
どれだけ「稀」でも当たってしまったら「100%」で。

それでも自分自身に「稀」な副作用が起きたら、それはもう運命というか業というか、何とか受け入れる(諦める)ことになっていくと思います。
でも、我が子にそんな事が起きたら…。きっと、そんな境地になれないでしょう。
だからこそ、若い世代の接種数が増えて問題ないと思えるまで様子をみたい・・・と思うのですが、これって他のお子さん達で試してもらっていることになるんだよな・・・とも思ったり。
我が子可愛いい親の身勝手さですが、それでも我が子の接種は敢えて急がないつもりでした。

そして、数週間後に考えを改めることになるとは、この時は思っていませんでした。

第5波到来・・・

そう、皆様もご記憶の通り、大きな感染拡大の波がありました。
連日感染者の多さが更新され、医療崩壊で命を落とす方もでてきました。
頻度は少ないとはいえ、若年層の重症化例も報告され始めました。

連日の不穏な報道と、同級生達が接種を終えていく(地方自治体により接種スケジュールに差があったので)中で、当初は「受けなあかんかな〜」と言っていた息子も「いつ受けられるのだろう」と言うようになりました。

私も感染拡大状況から、様子見・・・なんて呑気な事を言っている場合ではないと思い始めました。
この時点でも16歳以上の接種案内は市からはなく、アナウンスがあればすぐに予約の申込みをしよう、それでも数か月先になるのでは・・・と、勝手な話ですが接種できない状況に今度は不安を感じた程です。

そして、8月に「10月から接種開始。9月に予約受付。」の案内が。
予約において大きな混乱もなく、10月下旬に1回目のワクチン接種ができることになりました。

いざ接種・・・

見通しがついてほっとしたものの、やはり副反応は心配です。
息子にはアナフィラキシーショックの症状を話し、体調に異変を感じたら接種会場のスタッフの方に申し出るよう念を押しました。
心筋炎を含めた副反応についても話をし、接種日と翌日の部活動を休むことを確認しました。
厚生労働省の情報では一般的な予防接種と同様、激しい運動は避けるのは接種当日だけで良いようでしたが、副反応の発現時期が接種後12~24時間までの事が多いようなので念の為の判断でした。
結果的には副反応で学校自体を休むことになり、部活の心配は無用だったのですが・・・。

1回目接種の翌朝、「ちょっとヤバいかも」と起きてきた息子。(接種当日はピンピンしていました。)
熱を測ると37.7℃。はい、欠席決定。

発熱に加えて頭痛もでてきたようだったので、アセトアミノフェンを飲ませました。
その効果があったのか、お昼前には熱も下がり、翌日は普段通り登校しました。

ですが、正直なところ1回目の接種から発熱があるとは思っていませんでした。
本人も「2回目はもっと強くでるよな…」と嫌な顔をしていました。ただ、1回目からの副反応といえども軽微なものと考えて、予定通り2回目接種も受けることとしました。

2回目も接種当日は元気で、でも翌日は休む気満々だった彼、翌朝は「だるい」と起きてきません。
体温は37.3℃。発熱や頭痛よりも倦怠感の方が強いようで、食事とトイレ以外は眠りこけていました。そんな状態が翌々日も続いたので少し心配したのですが、3日目には登校しました。
発熱も頭痛も軽微のようでしたが、アセトアミノフェンを服用すると本人いわく「ちょっと楽になる」そうで、2日間で3回服用しました。
そして、学校から帰ってくるなり「しんどかった!」と言うのでヒヤリとしましたが、「身体がなまっていたから、3日ぶりの部活はきつかった」と。何じゃそれ…。

これで家族全員の新型コロナワクチン接種が終わりました。

最後に…薬剤師の視点から

副反応出現時の解熱鎮痛剤は、アセトアミノフェン製剤が禁忌の方が少なく安全性が高いので使いやすいです。成人はその他の解熱剤でも構いませんが、15歳以下のお子さんは適応や安全性から、アセトアミノフェンの1択になるかと思います。続けて服用する場合は、基本的に4〜6時間あけるようにして下さい。
詳しくは医師や薬剤師にお尋ね下さい。

今回、私が気にした副反応は心筋炎でした。ですが、この副反応は10-20代の男性に多いと報告されているものの、頻度としては10万~数十万接種に1例と極めて稀であること、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合はもっと高い頻度で心筋炎・心膜炎がおこることが知られています。モデルナ社のワクチンに比べてファイザー社のワクチンの方が頻度が低いため、10~20代の男性はファイザー社のワクチンを接種することが推奨されているようです。(厚生労働省「新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎について」

心筋炎の副反応は接種後4日間以内に起きる事が多いので、その間に胸の痛み・動悸・息切れ・むくみが生じた時は医療機関へ受診を。

私もそうですが、稀とはいえ重篤な副反応や副作用があると不安を感じるのは当然です。それが我が子のことなら尚更です。
ですが、個人的には「知らぬが仏」でいるより、きちんとリスクを知った上で自分の身体の変化を意識して事にあたりたいと思います。
先ほどの心筋炎の副反応報告の殆どが受診後の適切な処置で軽症で済んでいるそうです。
ある程度の年齢のお子さんであるなら、「かけがえのない自分の身体の変化を自分で観察・管理することが自分の命を守る」ことを学ぶ良い機会になるかもしれません。

このブログを書いている最中に新たな変異株(オミクロン株)のニュースが飛び込んできました。
ワクチン接種年齢も12歳以上に引き下げられています。
流行が下火になっているとはいえ、新たな変異株の出現や第6波の可能性もある中、ワクチン接種対象年齢のお子さんがいるご家族は難しい判断を迫られるのかもしれません。

その判断材料になるかどうか・・・、国立成育医療研究センターのホームページに記されているメッセージをご紹介させていただきます。

子どももワクチンを打った方がいいですか?

現時点では新型コロナワクチン接種が可能なのは12歳以上であり、12歳未満の場合は接種することはできません。(接種可能な年齢については今後変わる可能性があります)。一言で「子ども」と言ってもそれぞれ状況は違うと思います。例えば、基礎疾患のあるお子さんなら、新型コロナウイルスに感染した際の重症化リスクが高くなるため、主治医と相談の上ワクチン接種の検討をお勧めします。また基礎疾患がなくても、例えば「受験がある」といった人生における重要なイベントが控えている場合などは、ワクチン接種を検討してもよいかもしれません。健康なお子さんたちに広く新型コロナワクチンを接種すべきなのかについては現在検討が進められているところです。子どもは家庭内で感染することが多いことからも、まずは、お子さんに感染させないためにも大人がワクチン接種を進めていく事が重要です。お子さんの接種を考える場合には、メリット・デメリットをお子さん本人に分かる言葉で十分に説明し、本人の意思を尊重して、お子さんと保護者が一緒に接種するかどうかを決めることが重要と考えます。

コロナ禍の今、あらためて伝えたいお子さんと妊婦さんのためのQ&A

おまけ・・・我が家のオミクロン株のウソ?ホント?(正直、笑えない話かも)

「オミクロン株国内初感染」の報道があった翌朝、いつものように慌ただしく朝食をとっている最中に息子が「オミクロン株は壁を通り抜けるらしいで」と爆弾発言。

壁?何かの怪奇現象ですか・・・。
頭から否定してはいけないと思いつつ、「どういうこと?コロナウイルの粒子径考えたらいくら何でも・・・」と尋ねる私に「何かネットに書いてたみたい(友達にきいたのか?)」とだけ言って家を飛び出す息子。

気になってネット検索するものの、それらしき話題は見つからず、もしやこれかと思ったのが海外のケースを取り上げたニュース。

オミクロン株陽性者の向かいの部屋に滞在していた人も感染・・・というニュース。
検疫用のホテルでマスクをせずにドアを開けたことから空気感染が示唆されているようですが、まさかこれで「壁を通る」となったのでは。まさかね・・・。

結局、ある意味天然キャラの息子や彼の楽しい仲間達の早合点なのか、SNSでのジョークなのか、話の大元は分からず終いですが、こんな風に突飛な話の拡散が始まるのかなと思ってしまいました。

新しい情報に関心を持ちつつ、情報の真偽を判断できる力を養っていきたいです。

コメント