「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。
なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。
今回も調剤薬局でのお話です。
ある日の出来事…
「実はこの漢方薬、のんでいないの…。」
と、打ち明けてくださったのは60代の患者さん。
腹部手術の後に処方されていた大建中湯のことでした。
真っ先にお尋ねしたのは
「のんで何か辛いこと、気になることがありましたか?」
…でした。
とかく「エビデンス(科学的根拠)が」と後ろ指を指されることの多い漢方薬の中で、高いエビデンスレベルがあるとされているのが、「消化器手術後のイレウス(腸閉塞)予防に大建中湯」です。
この患者さんの処方は、まさにこれでした。
ただ、大建中湯を「合わなくて止めた」という声もチラホラ聞きます。
「のんでない」の一言で、その声が頭をよぎった故のお尋ねでした。
ですが、患者さんの理由は別にありました。
「だって、ずっとのむと下痢するって…」
入院中に看護師さんが「のみ続けると下痢するかも」と言ったことが気になっていたそうなのです。
そもそも大建中湯って、どんな薬?
大建中湯は、山椒・人参・乾姜・膠飴からなる方剤です。
温めて、胃腸の働きを整える薬です。
冷えからくる腹痛・お腹の張り・ガスがでやすい・下痢・便秘…等のお腹のトラブルに使われます。
お腹を温めて不調を改善する処方なので、冷えがない、むしろ熱症状のある方には不向きです。下痢や便秘等の症状が悪化する場合もあります。
また、高齢者では常用量で食欲不振になりやすく、半量から始める場合もあります。
…そんな副作用が気になったのですが、看護師さんの「下痢をする」発言はそれとは別のような気がしました。
どうして、そうなった?そして…
おそらく、大建中湯がお腹が張ってガスがでやすい便秘に使われることから、看護師さんは「大建中湯=下剤」の認識だったのではないでしょうか。
実際は、お腹が冷えた時の下痢にも使われる方剤なのですが。
患者さんには、大建中湯はお腹の動きを整えるので下痢にも便秘にも使われることを説明しました。
そして、のんでいなくてもお腹のトラブルがないのであれば、それを医師に伝えて、服用を続けるか相談するようお勧めしました。
漢方薬に限らず、薬局での「実は…」の打ち明け話は珍しくない光景です。
医師に伝えられるのが一番なのですが、それが難しい場合は、薬局でご相談を。
「先生(医師)にはナイショだよ」なんて言われてしまうと困ることもありますが、より良い対策を考えてくれることでしょう。
一人一人、自分にとって“良い治療”で健やかな毎日を…。
コメント