副作用のないお薬はありません。
副作用とは治療に関わる主作用に対し、それとは異なる別の作用や有害である作用のことです。
言葉遊びになってしまいますが、「主作用に対して…」と定義されている副作用がないものは、主作用もない訳で薬とはいえません。
漢方薬も然り…です。
漢方薬にも副作用はあります
漢方薬を希望される方の中に、「漢方薬の方が身体に優しい」「漢方薬は副作用がないから」と仰る方がいらっしゃいます。
確かに、西洋薬に比べて生体の自然なリズムに合わせて作用するのが漢方薬の特徴の一つです。そういう意味では「身体に優しい」かもしれません。ですが、証(病が身体のどの部分にあって、どのような状態か・患者の抵抗力や体質はどうか・・・等の総合判断)と違う漢方薬を使ってしまって好ましくない状態に陥ること(誤治といいます)もあります。
また、そこまでにならずとも証が違えば効果が期待できず「漢方薬なんて効かない」なんて言われてしまうことも。
漢方薬の副作用を考える際、特に次の場合は要注意です。
①2種類以上の漢方薬を服用している場合、エキス剤だと生薬が被ってしまいます。多くの方剤に含まれている甘草は、注意を要する生薬の代表格です。
②長期間の服用する場合、副作用のリスクが高くなります。長期服用に適さない生薬があるからです。
③高齢者や基礎疾患のある方は、服用量を考慮する必要があります。肝機能や腎機能に影響する可能性があります。
ですが、重い副作用が少ないのも事実です。勿論、重篤な副作用も報告はされていますが、他の医薬品よりは少ない頻度です。そういう意味では使いやすいお薬とはいえます。
ただ、副作用が軽微だと「えっ?それは飲んでいる漢方薬のせいだったの?」という場合もあります。
ここでは、そんな気づきにくい副作用から気をつけたい副作用の例をご説明いたします。
気づきにくい副作用 〜漢方薬が原因だったなんて・・・!〜
その1:「最近、お腹ゆるいです…」
大黄という生薬は瀉下作用を持ち、いわゆる下剤として用いられます。
「大黄甘草湯」や「麻子仁丸」、「潤腸湯」といった便秘を改善する方剤(生薬を組み合わせて処方したもの)に含まれています。服用量が多いと下痢になる事もあり、その場合は量を加減して用いますが、虚弱体質の方が使うと下痢と共に腹痛を伴う事もあります。
大黄には瀉下作用の他に、気鬱や熱のこもりを改善する作用もあります。煎じ薬の場合、煎じる時間が長いと瀉下作用が減じ、その他の作用が高まるともいわれています。
こうした瀉下作用以外の効果を期待して大黄が含まれていると考えられる方剤に黄疸や口内炎に用いられる事の多い「茵蔯蒿湯」やストレスによる不眠や不安等の諸症状に用いられる事の多い「柴胡加竜骨牡蛎湯」(エキス剤の場合、メーカーによっては大黄が入っていないものもあります)等があげられます。
便秘がちな方に用いられる場合が多い方剤ですので、殆どの場合問題ない(むしろ、「便秘も解消されて良かったです」という事も)のですが、中には「最近、お腹がゆるくて…。悪いものでも食べたかしら。」と仰る方もいらっしゃいます。
大黄の他にも「お腹がゆるくなる」可能性のある生薬があります。
「加味逍遙散」は更年期障害や月経のトラブルによく用いられる方剤で、便秘がちな方に適しています。便秘で困っているけれど、大黄が入っていると腹痛が…という方にも用いられます。加味逍遙散に含まれている山梔子という生薬に軽い瀉下作用があるからです。
ただ、この山梔子が原因で下痢や腹痛をおこす方もいらっしゃいます。そして、山梔子によるお腹のトラブルは服用し始めだけでなく、長期服用されているうちにおきる事もあります。
山梔子が含まれている方剤は加味逍遙散の他に、先ほど挙げた茵蔯蒿湯や皮膚疾患や胃炎に用いられる事の多い「黄連解毒湯」、鼻炎・副鼻腔炎に用いられる事の多い「辛夷清肺湯」等があります。
「ずっと飲んでいるものだから大丈夫」とは思わず、これらの漢方薬の服用を続けていて腹痛や下痢が長引く時は、医師や薬剤師にご相談下さい。
その2:「最近、胃もたれが…」「食欲なくて…」
地黄という生薬は、補血・強壮の作用をもちます。排尿困難や下半身の痛み・痺れに用いられる事の多い「八味地黄丸」・「牛車腎気丸」等に含まれています。
地黄は胃腸の弱い方だと胃部不快感を生じる事があり、食前の服用から食後の服用に変える事で対処できる場合もあるのですが、「夜中のトイレが減って嬉しいのだけど、胃もたれがね。」と仰る方も中にはいらっしゃいます。
また「大建中湯」という方剤は、お腹の動きを整える作用があり、ガスがたまってお腹が張る方によく用いられます。お腹の動きを整える事で、便秘にも下痢にも効果が期待できます。最近では、開腹手術後の腸閉塞の予防で処方される事も多く比較的メジャーな方剤です。
ですが、大建中湯で食欲不振を起こす方がいらっしゃいます。ツムラの医療用エキス剤の場合、通常の用法・用量は「1日3回 1回2包」ですが、少なめの用量で処方して様子をみるドクターもいらっしゃいます。
元々、大建中湯は「温める」作用のある生薬で構成されていて、お腹のトラブルが「冷え」が原因であったり、「冷え」で酷くなる時に用いられます。ですので、身体に「熱」(いわゆる「発熱」とは違います)をもつ方には不向きな方剤です。
注意したい副作用 ~見過ごせない症状は?〜
その1:甘草の摂りすぎに注意
甘草は、鎮痛・消炎の作用をもち、他の生薬の副作用を和らげる働きもあります。
この甘草の摂取量が増えると、むくみや血圧上昇等の副作用が起きやすいといわれています。
煎じ薬ですと各々の生薬の加減がしやすいのですが、エキス製剤は2種類・3種類・・・と組み合わせると重複する生薬の量が多くなってしまいます。
甘草は漢方エキス製剤の約7割に含まれている生薬です。また、ショ糖の約150倍の甘みを有するともいわれ、甘味料として菓子等に多く使われています。
例えば、こむら返り(足のつり)に使われる芍薬甘草湯は甘草が多く含まれる方剤です。
甘草を含む漢方薬を常用されていて「こむら返りが辛い」と芍薬甘草湯を併用された方が「最近足がむくみます」と仰る事があります。
エキス剤を1日1包程度服用するぐらいでは心配が要らない事が多いのですが、「何度も足がつる」「こむら返りが怖いから、ずっと飲んでいる」方は要注意です。
こむら返りは脱水やミネラルのバランスの崩れ、冷えで起きやすいといわれていますので、まずはそちらの対策を。
ミネラルのバランスについて、少し専門的な話になりますが、ある種の利尿薬等には血液中のカリウムを低下させる作用があります。血液中のカリウム濃度が基準値を下回る(低カリウム血症)と種々の症状が現れますが、その中に足のつりがあります。普段飲まれている薬の副作用とは思わず「最近足がつりやすいから」と芍薬甘草湯をドラッグストアで購入される方がいらっしやいます。
厄介な事に、甘草の副作用にも「低カリウム血症」があります。こむら返りの改善の為の芍薬甘草湯ですが、不適切な使い方を続けるとこむら返りを引き起こす事になりかねません。
「漢方薬だから大丈夫」「自分で買える薬だから怖い薬ではない」と決めつけず、常用されている薬のある方や漢方薬を併用されている方は、服用の前に医師や薬剤師にご相談下さい。
その2:麻黄のドキドキに注意
麻黄は、発汗、鎮痛、鎮咳、去痰、利尿作用をもつ生薬です。風邪のひき始めや肩こりでお馴染みの葛根湯やアレルギー性鼻炎に用いられる事の多い小青竜湯等に含まれています。
この麻黄には動悸や不眠等の副作用が報告されています。
「肩こりに効く」と葛根湯を毎日服用された結果「胸がドキドキする」と言われた年配の方がいらっしゃいました。葛根湯は比較的体力のある方向きなので、高齢の方が常用量を連用すると麻黄の副作用がでやすいようです。
また、関節の痛みに整形外科で処方される事の多い越婢加朮湯や薏苡仁湯にも麻黄が含まれています。これらの漢方薬を服用されている方が風邪や花粉症で葛根湯や小青竜湯を併用されると、先ほどの甘草の例と同様、麻黄が重複し副作用の可能性が高くなってしまいます。
葛根湯も小青竜湯もドラッグストアで手軽に購入できる漢方薬ですが、無条件に「身体に優しい」わけでも、「副作用がない」わけでもありません。ご注意下さい。
その3:食物アレルギーに注意
生薬は天然素材であるため、日常摂取する食物やそれに類似する場合が多いです。その中には食物アレルギーを起こす可能性があるものがあります。
例えば小麦。生薬名は小麦です。心身の興奮状態を静める働きがあり、子供の夜泣きにも使われる甘麦大棗湯に含まれています。
また、山薬と呼ばれる生薬は山芋・長芋です。八味地黄丸や牛車腎気丸に含まれています。
以前、喉に詰まったような違和感のある患者さんが半夏厚朴湯の服用を飲み始めてすぐに「かえって喉がイガイガする感じがして続けられなかった」と仰った事がありました。
喉や食道、甲状腺等の器質的な異常が認められない喉の詰まりや違和感は漢方では「梅核気」と呼ばれ、この半夏厚朴湯がよく処方されます。半夏厚朴湯には半夏が含まれていますが、これはサトイモ由来の生薬です。この患者さんは、その時のお話のやり取りで「サトイモを剥くと痒くなるし、食べた時に口の中がイガイガする時がある」事が判りました。
実際に漢方薬を服用してアレルギーを起こすことはまれです。ですが、食物アレルギーは思いもよらない重篤な事態を招く事もあり、用心するに越したことはないと思います。
最後に…「副作用のない薬はない」と言ったけれど
漢方薬の見落とされがちな副作用、注意が必要な副作用をご紹介しました。
漢方薬でも副作用がでる場合があります。気になる症状があれば医師や薬剤師にご相談下さい。
また、複数の漢方薬を服用される場合も医師や薬剤師にご報告下さい。名前の違う漢方薬でも含まれている生薬が重複している可能性があります。
ところで、本当に「副作用のない薬はない」のでしょうか?
実は、西洋医学と漢方では「薬」に対するイメージが若干異なっています。
中国最古の薬学書とされる「神農本草経」には365種類の生薬が記載されていて、これらを「上品(上薬)」「中品(中薬)」「下品(下薬)」に分類しています。
上品は、副作用がなく長期服用が可能。継続して服用する事で自然に体質が強化される。
中品は、長期服用で副作用がでるものもあるが、適正な使い方では副作用も少ない。病気を予防し、虚弱な体質を改善する。
下品は、いわゆる治療薬。病気を治す作用は強いが副作用が強くでる事もあり、分量や服用期間に注意が必要。
・・・つまり、西洋医学における「薬」(私達が普段「薬」と呼んでいるもの)は「下品」にあたります。
そして、漢方では「下品はできるだけ服用を避けるべき」とされています。
下品を使わなければならない状態(病気になる)前に予防的な養生の薬である中品を使う事、さらに健康なうちに上品を用いて積極的に体質を改善する事が理想とされている訳です。
健やかな毎日の為に、「薬」に対する認識を改めて、上手に「薬」を活用していきたいですね。
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