学校薬剤師とお酒のお話…アルコールは(ある意味)薬物です

学校薬剤師

毎年11月10日から16日までは「アルコール関連問題啓発週間」です。アルコール健康障害対策基本法において定められています。(だから、堅苦しい名称なのかも・・・。)
「飲酒に伴うリスクやアルコール依存症について正しく理解した上で、お酒と付き合っていける社会をつくる為の教育・啓発」がその目的です。
今回は、アルコールに関する学校教育についてのお話です。

学校でアルコールの勉強?

アルコール健康障害対策基本法に基づき作成される「アルコール健康障害対策推進基本計画」において、「小中高、大学等における飲酒に伴うリスク等の教育の推進」が挙げられています。
学校では以前にお話した「お薬教室」や「薬物乱用防止教室」の授業の中でアルコールの問題も取り上げられる事が多いようです。学校薬剤師は、ここでアルコールに関する教育と関わることになります。

何故、学校で教える必要があるのでしょうか。
未成年の飲酒が法律で禁じられているから・・・勿論です。
では何故、未成年の飲酒が禁じられているのでしょうか。
それは、未成年は成人に比べて飲酒による悪影響を受けやすいからです。

背が伸びて大人と同じ体格になっても、20歳までは身体の成長の為に大切な時期であるといわれています。この大切な時期の飲酒は様々な悪影響を及ぼします。
早い時期からお酒を飲み始めるとアルコール依存症になりやすく、脳の萎縮も進みます。
また、思春期の飲酒は第二次性徴に必要な性ホルモンの分泌に影響します。
これらの飲酒による健康上のリスクを子ども達に伝えることは、とても大切です。

さらに、未成年の飲酒は他の薬物乱用のハードルを下げる「ゲートウェイドラッグ」になる可能性があります。
実は、1996年から4年ごとに行われている未成年者飲酒状況の全国調査では、過去1カ月間に飲酒経験のある未成年者は減少し、未成年者の飲酒は改善傾向にあることが示されています。(若者の飲酒と健康、事件・事故との関係:厚生労働省
ですが小中高生の大麻乱用等、昨今の薬物乱用問題を考えると「ゲートウェイドラッグ」となる飲酒には「絶対ダメ」と伝え続けていく必要があると思います。
家の中だからと安易にお酒の味見を子どもにさせることも良くないですし、正月や法事の集まりで子どもにビールを飲ませようとする親戚のおじさんが過去の遺物になることを願うばかりです。

大人にとってのアルコールの学びは?

子ども達にアルコールのリスクを知ってもらうことは大切ですが、大人の知識は如何でしょうか。


日本人の1割はアルコールを分解する酵素が働かない為にお酒が全く飲めず、3割の人はお酒に弱いといわれています。
そう、日本人はアルコールの影響を受けやすい人種ともいえるのです。
にも関わらず、個人的な印象ですが、日本では睡眠薬や所謂ドラッグに対する危機感・恐怖感に比べて、お酒に対する受け止め方は甘いように思います。

睡眠薬に抵抗があるから寝酒をする(量によっては催眠作用がありますが、睡眠の質が悪くなります。アルコール依存症のリスクも高くなります。)、軽い気持ちで子どもに飲酒をすすめる…のもその表れかと思います。また、急性アルコール中毒の恐れもあるイッキ飲みの強要や意図的な酔つぶし、飲めない人への配慮に欠く行為は、アルコールに関する知識不足によるものといっても過言ではありません。

アルコールの身体への影響のうち、脳や肝臓へのダメージについては広く知られていますが、その他にも食道や胃、膵臓等の疾患の原因にもなります。

国内でアルコール依存症と診断ないし推定される人は100万人超いますが、実際に治療を受けている人は5万人程です。アルコール依存症とその予備軍・多量飲酒者・リスクの高い(未成年・妊婦・授乳婦・高齢者等)飲酒者を合わせると100人に1人はアルコールの問題を抱えているといわれています。
アルコールの問題は決して他人事ではなく、アルコール依存症も決して珍しい疾患ではないことがお解りいただけるのではないでしょうか。

でも、酒は百薬の長でしょ?

アルコールの害についてお話すると、そういうお声が聞こえそうです。
百薬の長は「どんな良薬よりも効果がある」という意味ですが、ここに「程良く飲むなら」がつくことをお忘れなく…。

では「程良く飲む」=飲酒の適量はどのくらいなのでしょうか。
節度ある飲酒の適量は、「1日に純アルコール量20g」・「週に2日は休肝日」といわれています。
これは、アルコール消費量と総死亡率の関係を検討し割り出した値です。

アルコール飲料に含まれる純アルコール量(g)

   =アルコール飲料の量(ml)✖アルコール濃度✖0.8(アルコール比重)

この計算でいくと、アルコール濃度5%のビールなら500ml(中瓶)、7%のチューハイなら350ml(1缶)です。
さらに、アルコールの影響を受けやすい女性や高齢者は、この半分の量(10g)を目安にすべきといわれています。
また、少量のアルコールで赤くなってしまう人(アルコールの代謝能力の低い人)はさらに量を控えめにすべきですし、アルコール依存症者は断酒が基本となります。


…適量は意外に少ないと感じた方も多いのではないでしょうか。
私もお酒を楽しみたい人なので、正直「美味しいもの食べて、皆で楽しんでいる時にこの量では…」と思ってしまいます。
ただし、飲酒習慣(週に3日以上、飲酒日1日あたり1合以上の飲酒)のない人はその限りではありません。ですが、やはり1度に大量の飲酒は避けるべきです。

まとめ

子どもも大人も正しいアルコールの知識が必要です。
子どもには早い時期からの飲酒が身体に及ぼす影響を知ってもらい、アルコールをゲートウェイドラッグにさせない。
大人もアルコールの心身に及ぼす影響を知り、アルコールの問題を身近な問題と意識した上で、お酒と上手に付き合う。

「アルコール関連問題啓発週間」を機に家族でアルコールについて話し合ってみては如何でしょうか。


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