学校薬剤師と「お薬教室」…かけがえのない自分の命を大切にするために、子ども達に伝えたいこと

学校薬剤師

平成20年、高校・中学学習指導要領に「くすり教育」が導入され、「医薬品を正しく使用すること」への学びがスタートしました。今では各校での判断ではありますが、小学校でも行われています。
今回は、「くすり教育」の必要性と学校薬剤師のかかわり方についてお話しいたします。

その前に平成から令和にかけての日本の健康課題について、お話ししたいと思います。
ここ数年注目されているセルフメディケーション、この重要性がコロナ禍で高まっています。
また、生活習慣病には病院に行って薬をもらうだけでなく、生活習慣の改善等のセルフケアが必要だといわれています。
さらに、人それぞれの家庭環境や価値観で治療を選択する(治療をしないという選択も含めて)時代となりました。

ですが、これらの課題に対応できている方は思いの外少ないと感じます。
何故でしょうか。

一つは昭和の時代とは全く違う動きだからでしょう。
昭和の時代、特に国民皆保険が整備されてからは、身体に不調を感じたら病院へ…が当たり前になりました。受診や薬に多額のお金がかかかる為に先ずは身近な養生で様子をみていた頃と違い、とにかく病院に行けば少ない負担金で治療が受けられるようになったのです。医師が最良と信じる治療を行うのが当たり前で、患者もそれに従うことに疑問を感じない時代でもありました。「先生にお任せします」と言うセリフもよく聞きましたし、患者が治療に口を挟もうものなら「素人が口をだすな」とばかりに怒る医師も少なからずいました。病名を告知せずに治療を行うことすらありました。
「病院に行けば何とかなる」、「医師にお任せ」の風潮では、病気や健康への関心が薄れ、セルフメディケーションの意識が低下するのも仕方のないことかもしれません。

もう一つは、病気や健康、薬について教わったことがないからだと考えられます。
学校で教わる時間があれば、興味のあるなしや程度の差こそあれ頭の片隅に残ることでしょう。ですが、そうでない日本では、自ら学ぼうとしなければ見聞きする機会のない人が沢山いるのではないでしょうか。
大人になっても、親になっても、時代が変わっても、学ぶ機会のなかった人達にとっては難しい健康課題です。
年配の方ならまだしも、若い世代でも「風邪をひいたから抗生物質をもらわないと」と思っている方が一定数いる事は、その表れだと思います。
一人一人が健康や病気に関する正しい知識と医薬品の基礎知識や適切な使用方法を身につける為には、やはり学ぶ機会が必要です。

だからこその「くすり教育」です。
医薬品の正しい理解の為には、病気や健康への理解も必要です。これらの理解は、セルフメディケーションにつながります。
医薬品の適正使用が理解できれば、薬物乱用防止の理解も深まります。
生涯にわたり自分の健康管理を適切に行う能力を身につけることは、自分の身体を大事にすることです。
かけがえのない自分の命を大切に、自分の命と同様に人の命もかけがえのないもの…。
「くすり教育」を通じて子ども達に伝えたいのは、これに尽きると私は思っています。

さて、学校における「くすり教育」と学校薬剤師の関わりについてですが、地域によっても学校によっても違っています。
学校薬剤師が自ら子ども達の前で話をする場合もあれば、先生方の授業のお手伝いやアドバイスをする場合もあります。
学習指導要領に明記されていない小学校においては、特にバラつきがあるかもしれません。
幼稚園にいたっては「まだまだ小さいから先の話」でしょう。
ですが、「お薬の正しい使い方」については子どもの発達段階に合わせて繰り返し取り上げる必要があると思います。
「くすりは正しく飲もうね。」
「お友達にあげちゃダメだよ。」
「あまいけれど、おやつじゃないよ。」
…等、子ども達が理解できる事から始めるのが大切です。
「まだ小さい子に解るはずがない」というお声も耳にします。ですが、子ども達の理解力は馬鹿にできません。子どもが自分が知り得る範囲で何とか理解しようとする微笑ましい様子を目の当たりにした方も多いのではないでしょうか。私もその一人です。
そして、パパやママが学ぶことをお手伝いできる機会があればとも思っています。

かけがえのない自分の命を大切に、自分の命と同様に人の命もかけがえのないもの…。
子ども達がそう感じる機会が増えることを願っています。

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