「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。
なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。
今回は調剤薬局でのお話です。
【ケース】80代女性
補中益気湯から六君子湯へ変更
80代のお母様の薬の為に、ご家族の方が定期的にご来局されていました。
「お薬、変わりましたね」の声かけに、彼女が一言。
「補中益気湯だと食欲が落ちるから…と医師が言っていました。」
…えっ?
補中益気湯も食欲不振に使いますが…。
「補中益気湯で食欲不振になる?」と、驚きつつも、漫然と処方されていた経緯から六君子湯への変更も“あり”なのかなと思ったのですが…。
補中益気湯をのんでも食欲不振が改善しない為に六君子湯へ変更されたのでしょう。
その説明で、ご家族の方が「補中益気湯で食欲不振」と勘違いされたのかもしれません。
それよりも、私が先に思ったのは「医師、あの文献を見聞きしたのかしら」でした。
六君子湯が食欲不振に効くメカニズムが食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌促進にある…という発表があった頃だったのです。
その発表で、食欲不振には六君子湯一択…と医師が考えられたとも思われます。
その説明で、ご家族の方が「補中益気湯で食欲不振」と勘違いされたのかもしれません。
だからといって、補中益気湯よりも六君子湯が食欲不振に有用だと言う訳ではありません。
補中益気湯が食欲不振に用いられる場合、「食べられない」というより、「食べても美味しくない」という方によいとされています。
どちらも脾(消化器)の機能低下(脾虚)に用いられますが、アプローチが違います。
●補中益気湯→脾の“気”を補い、気が下に落ちる(中気下陥といって、臓器下垂やたちくらみ、易疲労を起こします)のを上げていく。
●六君子湯→脾の余分な“水”をさばき、上がりすぎた気(気逆といって、吐き気や動悸を起こします)を下げていく。
漢方薬が効くメカニズムを西洋医学的に解明するのは有用なことですが、それでも大事なのは、それぞれの方の“証”(症状や体質)だと思います。
ご本人が来局されたことはなく、ご家族の方のお話だけの推察では、この辺りまでが限界でしょうか。
食が細くなっていることは伺っていましたが、ご年齢からくるものかもしれません。
極端に胃腸の機能が落ち、補中益気湯ですら負担となり、食欲不振を招いた可能性も否定できません。
漢方薬にも副作用はあるのです。加えて、他にも多くの薬が処方されていました。
内科系・整形外科系・精神科系…その数、十数種類。
いわゆるポリファーマシー(多剤併用)です。食欲不振の原因はここにもあるように思えます。
このケースで救い?は、補中益気湯に六君子湯が追加されなかったことかもしれません。
西洋医学的な病名での投与、“足し算”が主流の医療現場では有り得ることです。
漢方薬のポリファーマシーも薬局では珍しい光景ではありません。
ポリファーマシーが全て悪い訳ではありません。
必要なケースも多く、処方箋の内容だけで是非を判断するのは不可能です。
ですが、ご本人やご家族が「この薬は本当に必要?」と思われているのなら…。
薬局で、現状や疑問に感じていることをお話しください。
そうすれば…。
●薬剤師からその薬が必要な状況の説明を受けることができます。
●薬を減らせるかどうか、医師への会話の糸口をアドバイスしてもらうこともできます。
大切なのは、自分や家族の薬を“おまかせ”にしてしまわないこと。
その為のお手伝いができれば嬉しいです。
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