煎じ薬が良いクスリ?〜漢方薬の剤形を考える〜

漢方

以前に漢方薬の剤形について(「色々な漢方薬」)ご紹介いたしました。

顆粒や錠剤の漢方エキス剤を誰もが目にする時代となりました。
葛根湯かっこんとう小青竜湯しょうせいりゅうとう芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう等、一般の方にとっても馴染みのある方剤も増えてきました。

ですが、「煎じ薬がでないと!」「エキス剤は薄い!」と主張する漢方家もいらっしゃいます。
今回は“煎剤vsエキス剤”のお話です。

エキス剤は、煎じた薬(煎液)の水分を飛ばしたものからつくられています。複数のエキス剤を用いる場合、生薬が重複してしまうこともあります。対して煎じ薬は、症状に合わせて生薬を加えたり除いたりする事ができます。
「煎じ薬がオーダーメイドなら、エキス剤は既製服」と言われる所以です。

「煎じ薬がドリップコーヒーならエキス剤はインスタントコーヒー」と言われることもあります。
同じ名前の漢方薬でも、エキス剤では効かなかったけれど、煎じに切り替えると効果があった・・・という話をよく聞きます。
「やっぱり煎じでないと。エキス剤は効き目が薄い。」と漢方薬局ですすめられることもあります。
保険調剤での収益がない漢方薬局の場合、煎じ薬で効き目がダイレクトにでるとファンになってもらいやすい、エキス剤よりも他で手に入れにくいので続けて来店してもらいやすい…といった側面があるのかもしれません。

では、本当に「漢方薬は煎じが良い!」のでしょうか。


煎じ薬は、毎日決められた方法で生薬を煎じ、それを2-3回に分けてのみます。
1日分として数種の生薬がパックされた漢方薬を土瓶・やかん・鍋に水と一緒に入れて煮詰めるのですが、鍋の種類・火加減・時間で煎じ薬の内容にバラつきが生じるのは容易に予想されます。

煎じるのは患者さんやそのご家族です。
調剤薬局で、お伝えした説明とは違う思わぬ使い方をされている話を度々耳にする私としては、きちんと説明の通りに煎じていただけているか、心配だったりします。

「漢方薬はエビデンス(科学的根拠)に乏しい」といわれることが多いです。
治療の効果を検証する際に重要なのは、再現性です。バラつきのある煎じ薬での論文が少ないのは、このためです。

エキス剤はメーカーの管理下で製造されており、一定の品質が保たれています。
煎じ薬の課題であった再現性がクリアされているのです。数は多くないのですが、漢方薬の治療効果についての論文発表もでてきました。

確かにエキス剤は漢方薬の長い歴史を考えると、当初とは違う形態である分、全く同じ効果は期待できないかもしれません。
そもそも漢方薬の選択は“証”に基づくべきで、西洋医学における診断名での治療効果の検証を疑問視する声もあります。
「長年の実績こそ“エビデンス”だ」ともいわれています。

ですが、西洋医学という別の視点からの検証を可能にし、漢方薬を広く一般に浸透させたエキス剤の功績は大きいと、私は思います。

「コーヒーメーカーにはインスタントコーヒーにはない欠点がある。 それはインスタントコーヒーの味が出せないことだ。」…湯川学(東野圭吾著 探偵ガリレオシリーズ)

”煎じ薬 vs エキス剤”の話題を耳にする度に湯川博士の言葉が思い出されます。
私の記憶の中では「インスタントコーヒーの良いところは、誰が入れても同じ味だ」…だったので、この投稿を作るにあたって出処を調べてみたのですが、上のセリフしか見つかりませんでした。
本の中でのセリフか、ドラマで福山クンが言ったセリフか、それすら非常にあやふやなのですが。
ご記憶の方、お教えください。

個人的には、エキス剤で解決できるのであればそれに越したことはないと思っています。携帯や保管にも便利です。服用期間が長くなる場合もあるので、日々の生活で「便利さ」はモチベーションの維持に必要です。
ですが煎じ薬でしか解決できなかった人にとっては、「便利さ」を選ばないことも苦ではないのかもしれません。身体が楽になっていくのが実感できれば、煎じることが日課となることでしょう。

各々の利点を上手に生かして、健やかな毎日を…。

コメント

  1. →インスタントコーヒーの味が出せない…
    多分、福山がドラマで言った言葉だと思います(^.^)

    私の感覚では、煎じ薬のが効く気がします。
    その煎じ薬も自分のためにカスタマイズしてもらったものは、もっと効果があったと思います。
    とはいえ、忙しい時や外出先では煎じられないし、顆粒を使うことが多いです…(^-^;

    • 薬剤師A 薬剤師A より:

      ありがとうございます!
      ドラマでしたか〜。(^_^;)
      やはり煎じ薬は効きめがよいですね。不調の初めに煎じ薬、落ち着いてからは便利なエキス剤という方も多いです。