疲れた胃腸に漢方薬を ~冬の養生と共に~

漢方

1月も半ば過ぎ、すっかり新年モードがなくなりました。
年明けには、「お正月に、飲んだり食べ過ぎたりしたからね…」と、苦笑いしながら血圧や血糖値の報告をしてくださる患者さんが少なからずいらっしゃいました。
また、胃もたれが続く…と来局される患者さんもいらっしゃいました。「新年の暴飲暴食のせいかな。」と言いながら。
逆に「そんなに不摂生していないのにね。歳かな・・・」と胃腸薬の類が書かれた処方箋を持ち込まれる患者さんもいらっしゃいます。

今回は、胃腸のトラブルに適した漢方薬のお話です。

食べ過ぎ・飲み過ぎには

平胃散へいいさん
いわゆる食べ過ぎによる胃もたれ、消化不良に効きます。比較的体力に関係なく使える方剤です。
食べ過ぎで必要以上に飲食物が胃に送り込まれてしまうと、そこで気(≒生体機能)が阻まれて、水の吸収が悪くなる・・・と漢方では考えます。平胃散には気の流れを良くし、水はさばく生薬が含まれています。
この平胃散に神麹しんぎく麦芽ばくが山査子さんざしの3つの生薬が加わった加味平胃散かみへいいさんはさらに消化の働きが良くなる方剤です。

半夏瀉心湯はんげしゃしんとう
食べ過ぎや飲み過ぎ(特に冷たいもの)による胃炎や二日酔いに用いられます。お腹がゴロゴロ鳴る(腹鳴ふくめい)人に使われることが多いです。
必要以上に飲食物が胃に送られて気の流れが悪くなると、みぞおちがつかえ、熱(発熱といった体温の上昇というより炎症のイメージです)をもつようになる・・・と漢方では考えます。半夏瀉心湯には気の流れを整えて、こもった熱を冷ます生薬が含まれています。
また、感染性の下痢や過敏性腸症候群等のストレス性の消化器症状、口内炎(胃の熱が原因・・・と漢方では考えます)にもよく用いられます。

黄連解毒湯おうれんげどくとう
こちらも食べ過ぎや飲み過ぎによる胃炎や二日酔い、口内炎に用いられますが、より熱(炎症)の強い傾向にある場合に使われるイメージです。
体力がある方に適しています。また、のぼせ気味でイライラする方の諸症状(痒みや炎症性の皮膚トラブル・不眠等)にも用いられ、守備範囲の広い方剤でもあります。

食べられない…食欲不振などの胃腸トラブルには

六君子湯りっくんしとう
ストレスや疲労、不規則な食生活により消化機能が低下して引き起こされる胃腸のトラブル(食欲不振・吐き気・胃痛・下痢等々)に用いられます。もともと胃腸の弱い方や「胃腸の具合が悪いけれど、胃カメラ等の検査をしても異常はみつからない」という方に効果的です。
最近の研究で、六君子湯に食欲を増進させるホルモン(グレリン)の分泌を促進させる働きがあることがわかり、西洋医学の観点からも有用性が証明されています。

補中益気湯ほちゅうえっきとう
名前の通り、「中(胃腸)を補い、気(元気)を益する」薬です。
元々胃腸が弱く、食欲不振になりやすい、疲れやすい方によく用いられます。食欲不振の場合、「食べたくない」というより「食事がおいしくない」と訴える方に適しているといわれています。

安中散あんちゅうさん
胃酸過多による胃痛や胸やけのある方に用いられます。この方剤が適する方は甘いものを好むことが多いともいわれています。
温める働きのある処方(よって、お腹が冷える事でおきるトラブルにも使われます)なので、急性胃炎や二日酔い等の胃に熱をもつトラブルには先にご紹介した半夏瀉心湯や黄連解毒湯の方が良いと考えられます。
ちなみにドラッグストア等で目にすることの多い「大正漢方胃腸薬」は、この安中散と芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう(痙攣性の痛みに用いられます)の合剤です。

だけど、漢方薬を飲む前に…

胃腸のトラブルに使われる漢方薬をご紹介しました。
ですが、出来れば漢方薬を飲む状態にならないようにしたいものです。

漢方の世界では、冬は「閉蔵へいぞう」の季節といわれています。植物は枯れて休眠状態、動物も冬籠りをするように、人の体もお休みモードで気(エネルギー)を外に出さない季節です。
そんな体に飲食物を詰め込み過ぎたり、過度な運動やダイエット等で消耗し過ぎると胃腸のトラブルや冷え、精神的な不調を招いてしまいます。

暴飲暴食を控えて、体を温め、ゆったり過ごす事が大切です。
漢方薬を飲む前の漢方ライフ(養生)で寒い中でも笑顔で過ごしていきたいものです。

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