しくじり漢方⑨ 漢方薬の使い方は多種多様…患者さんが釣藤散の服用を躊躇した訳

漢方

「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。

今回も調剤薬局でのお話です。

ある日の出来事…

「ちょっと教えてもらいたいのですが…」
と、切り出してくださったのは、50代女性の患者さん。
いつも内科の薬を取りに来られていました。

「この薬、本当にのんでよいのでしょうか?」
と、お薬手帳に記された漢方薬を示されたのです。
それが、釣藤散ちょうとうさんでした。心療内科で処方されていました。

「他でのんでいる薬があれば、医師や薬剤師に申し出を」は、思わぬ重複や相互作用を避ける為の基本です。
基本通り、患者さんは、いつもの薬をもらっている内科のDr.に報告しました。

内科のDr.は、耳慣れない漢方薬の名前を聞き流さずに、効能効果を調べられたのでしょう。
そして、思わず呟かれたのが「高血圧じゃないけど」…でした。

頭痛や目眩、気分の浮き沈みに悩まれて心療内科へ足を運んだものの、精神神経系のお薬に抵抗があり、漢方薬を選んだ患者さんにとっては、不安になる呟きだったようです。

確かに釣藤散の効能効果は「慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧傾向のあるもの」なのですが…。

そもそも釣藤散って、どんな薬?

釣藤散は、機能を調節し、情緒を司る“かん”が熱を帯びることで起こるトラブルに用います。
脾胃ひい”(消化器)の働きが悪くなり、余分な水(湿しつ)が溜まっている状態と合わさっていることも多いです。

“肝”で発生した熱により身体の中に“ふう”(内風ないふう)が起き、その風が湿を伴って頭部にいくイメージです。

釣藤散は、このような状態で起こる頭痛・目眩・耳鳴り・のぼせ・イライラ・不眠…に効果的です。
高血圧もそれらの症状の一つなので、釣藤散を選択する上での目安になりますが、絶対条件ではありません。

“肝”は“目”と深い関係がありますので、“肝”の熱は充血やかすみ目などの目のトラブルにもつながっています。
釣藤散には、頭部に熱を冷まし、目の働きを助ける菊花きくかという生薬も含まれています。

菊花と共に“肝”に発生した内風を抑える釣藤鈎ちょうとうこう防風ぼうふう、熱を冷まし潤いを与える石膏せっこう麦門冬ばくもんどう、脾胃の働きを助ける人参にんじん甘草かんぞう生姜しょうきょう陳皮ちんぴ茯苓ぶくりょう半夏はんげ…これらの生薬で釣藤散は構成されています。

どうして、そうなった?そして…

高血圧でない人が「高血圧傾向の人」と書かれた薬をのんだら…。
降圧剤のイメージだと血圧が下がり過ぎる心配をされることでしょう。釣藤散は降圧剤ではありません。
その人にとって、丁度良い血圧を維持していく効果は期待できます。

高血圧でない方にも使われること、血圧を下げすぎる心配はないこと…を患者さんにお伝えしました。

心の病に漢方薬?…と思われるかもしれませんが、意外に精神科や心療内科における漢方薬の処方は多いです。

今回のケースも稀ではありません。ただ、どこまでの処方意図かは疑問な場合もあります。
頭痛・目眩・イライラだから釣藤散、そして効いてるかどうか微妙だけど、服用して早や3ヶ月。
…これもよくあるケースです。

釣藤散に含まれる石膏は身体を冷やす生薬です。冷えの強い方には不向きですし、漫然と服用してよいものではありません。

処方された薬に不安を感じたら薬局の薬剤師へ。
漢方薬の服用に疑問を感じたら漢方相談へ。
漢方薬も西洋薬も、正しく使って健やかな毎日を…。

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