「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。
今回も調剤薬局でのお話です。
ある日の出来事…
「ちょっと教えてもらいたいのですが…」
と、切り出してくださったのは、50代女性の患者さん。
いつも内科の薬を取りに来られていました。
「この薬、本当にのんでよいのでしょうか?」
と、お薬手帳に記された漢方薬を示されたのです。
それが、釣藤散でした。心療内科で処方されていました。
「他でのんでいる薬があれば、医師や薬剤師に申し出を」は、思わぬ重複や相互作用を避ける為の基本です。
基本通り、患者さんは、いつもの薬をもらっている内科のDr.に報告しました。
内科のDr.は、耳慣れない漢方薬の名前を聞き流さずに、効能効果を調べられたのでしょう。
そして、思わず呟かれたのが「高血圧じゃないけど」…でした。
頭痛や目眩、気分の浮き沈みに悩まれて心療内科へ足を運んだものの、精神神経系のお薬に抵抗があり、漢方薬を選んだ患者さんにとっては、不安になる呟きだったようです。
確かに釣藤散の効能効果は「慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧傾向のあるもの」なのですが…。
そもそも釣藤散って、どんな薬?
釣藤散は、機能を調節し、情緒を司る“肝”が熱を帯びることで起こるトラブルに用います。
“脾胃”(消化器)の働きが悪くなり、余分な水(湿)が溜まっている状態と合わさっていることも多いです。
“肝”で発生した熱により身体の中に“風”(内風)が起き、その風が湿を伴って頭部にいくイメージです。
釣藤散は、このような状態で起こる頭痛・目眩・耳鳴り・のぼせ・イライラ・不眠…に効果的です。
高血圧もそれらの症状の一つなので、釣藤散を選択する上での目安になりますが、絶対条件ではありません。
“肝”は“目”と深い関係がありますので、“肝”の熱は充血やかすみ目などの目のトラブルにもつながっています。
釣藤散には、頭部に熱を冷まし、目の働きを助ける菊花という生薬も含まれています。
菊花と共に“肝”に発生した内風を抑える釣藤鈎・防風、熱を冷まし潤いを与える石膏・麦門冬、脾胃の働きを助ける人参・甘草・生姜・陳皮・茯苓・半夏…これらの生薬で釣藤散は構成されています。
どうして、そうなった?そして…
高血圧でない人が「高血圧傾向の人」と書かれた薬をのんだら…。
降圧剤のイメージだと血圧が下がり過ぎる心配をされることでしょう。釣藤散は降圧剤ではありません。
その人にとって、丁度良い血圧を維持していく効果は期待できます。
高血圧でない方にも使われること、血圧を下げすぎる心配はないこと…を患者さんにお伝えしました。
心の病に漢方薬?…と思われるかもしれませんが、意外に精神科や心療内科における漢方薬の処方は多いです。
今回のケースも稀ではありません。ただ、どこまでの処方意図かは疑問な場合もあります。
頭痛・目眩・イライラだから釣藤散、そして効いてるかどうか微妙だけど、服用して早や3ヶ月。
…これもよくあるケースです。
釣藤散に含まれる石膏は身体を冷やす生薬です。冷えの強い方には不向きですし、漫然と服用してよいものではありません。
処方された薬に不安を感じたら薬局の薬剤師へ。
漢方薬の服用に疑問を感じたら漢方相談へ。
漢方薬も西洋薬も、正しく使って健やかな毎日を…。
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