ニキビは“青春のシンボル”か“青春のコンプレックス”か…

薬局から

20年も(!)前のお話です。
午前の診察が終わり、午後の診察が始まる前の閑散とした薬局に一人の少年がやって来ました。
「もらった薬の説明をもう一度聞きたいです…」とやってきた彼の手には午前中に説明と共に渡したニキビのお薬がありました。


いつ塗れば良いか、洗顔はどうすればよいか、日常生活の注意点は…ポツリポツリと尋ねる彼が最後に質問したのは「これでボクのニキビは治りますか…?」でした。
多分、彼が一番尋ねたかった、不安だったのはこれだったのでしょう。きちんと対処していれば時間がかかっても良くなっていくし、痕も残りにくいことを伝えると、来た時よりも柔らかい表情で帰って行きました。

その時の彼のニキビは数が多い訳でも、炎症を起こしている訳でもなく、軽症に分類してもよいレベルでした。もっと状態の悪いニキビでも平気な子供もいれば、少しのニキビでも彼のように心配したり落ち込んだりする子供もいます。
人目に触れるニキビの捉え方は人それぞれであることを改めて感じました。

今回はそんなニキビのお話です。

そもそもニキビとは・・・?

ニキビは「尋常性ざ瘡」と呼ばれる皮膚疾患です。

ニキビができる原因は皮脂分泌の増加、毛穴のつまり、アクネ菌の増殖が関係しています。
ニキビは皮脂腺が発達し、皮脂が多すぎたり、毛穴の出口がつまったりすることで、毛穴の外に皮脂が出られずにたまってしまうことから始まります。この状態を「コメド(面皰めんぽう)」(白ニキビや黒ニキビ)と呼びます。
コメドの内部は、アクネ菌にとって発育に適した環境になっているので、コメドの中で菌はどんどん増えていきます。増えすぎた菌に対抗するために免疫が働いて炎症が起こり、ニキビは赤く腫れあがっていくのです。

「皮膚科学に特化した製薬企業マルホ ニキビ治療の総合情報サイト」より

ニキビの多くは思春期に発症しますが、成人しても継続したり、成人になって新たに発症したりする場合もあります。

ニキビに対する親子ギャップ?

ニキビの捉え方は人それぞれですが、親子でも異なってきます。
少し古い(2011年)アンケート調査ですが、多くの保護者が子供のニキビを「特に心配ない」と捉えているのに対して、当事者である子供の多くは「恥ずかしい」「自分に自信がもてない」「気持ちが落ち込む、イライラする」と回答しています。 

誰にも相談できなかったり、相談しても悩みを軽く捉えられてしまった子供の中には、ネット情報を鵜呑みにして誤ったスキンケアをしたり、品質が保証されていないニキビケア商品を購入してしまう場合があります。

先程のアンケート調査では、多くの保護者もニキビへの対応に「ニキビ用化粧品を使う」と答えています。その数は「皮膚科へ行く」を上回っています。
個人的には、値の張るニキビ用化粧品を買う前に皮膚科で診てもらった方が良いと思っています。

ドラッグストア等でも手に入る「ノンコメド(ニキビができにくい)」処方の洗顔フォームやローションでスキンケアをして、必要に応じて皮膚科を受診するのが経済的かつ効果的です。 

繰り返しになりますが、ニキビは皮膚疾患の一つです。周りの大人達が思っている以上に子供達にとってニキビは深刻な悩みであることを心にとめて、子供のニキビのSOSには真摯に向き合ってもらえればと思います。

日常生活での工夫は?

皮膚科へ行く前に、そして皮膚科へ行っても続けた方が良い日常生活の 工夫は次の3つです。

(その1)スキンケア
毛穴がふさがっていたり、汚れが残っていたりすると、ニキビができやすくなりますので、洗顔は大切です。
ニキビができにくいことが確認されている洗顔料で1日2回、、ニキビをつぶさないようにやさしく洗います。
洗顔料で何度も洗って余分な皮脂を取り除いた方が良いと思われがちですが、洗いすぎはニキビを刺激し、肌のバリア機能を損ねます。
部活などで沢山汗をかいた後は、水道水で汚れと共に洗い流しましょう。そして、清潔なタオルで顔を拭きましょう。

肌を清潔に保つことがニキビケアにつながります。
手でニキビや顔を触らないように(無意識にしていることも多いです)、汚れや整髪料がついている髪の毛が肌に触れないようにしましょう。
ですが、「髪型を変えるのがイヤ!」という子供達も多いことでしょう。その場合、せめて家にいる間だけでも、額や顎に髪の毛がかからないスタイルで過ごしましょう。
無理強いせず、できる工夫を一緒に考え、「こうすればニキビができにくい!」と自分で気づいてケアしていけるのが理想だと、私は思っています。


(その2)食事
“養生”の観点から、避けた方が良い食べ物があるのは事実です。
甘い物、スナック菓子は、その代表格です。

ですが、数多くの報告があるにも関わらず、特定の食べ物が悪いという明確な医学的根拠が示されていないのも事実です。
少なくとも子供達を追い込んでまで「やめさせる」必要はないのではと私は考えています。

勿論、明らかにニキビを悪化させると気づいた食べ物は程々にしてもらえればと思います。
そして、バランスの良い食事を。これは、ニキビだけでなく健康の為の基本です。

(その3)睡眠
不規則な睡眠や質の悪い睡眠は、肌の新陳代謝を妨げ、ホルモンバランスの乱れでニキビを悪化させます。

睡眠は、ニキビだけでなく子供の成長に重要です。
できれば、22時から2時の間はベッドに入っておきたいものです。
子供達には子供達の事情があるでしょうが、せめて日付が変わるまでには眠りについてほしいものです。 

皮膚科でのニキビ治療って?

冒頭でご紹介したお話の頃と違い、ここ数年でニキビの治療は随分と進化しました。
当時から抗生物質やビタミン類の内服、漢方薬は使われていましたが、外用薬は限られていました。
毛穴の詰まりやコメドを改善するイオウカンフルローション、非ステロイド性抗炎症薬、アクネ菌を抑える抗菌薬です。
外用抗菌薬で承認されていたのはナジフロキサシン(アクアチム®ローション・アクアチム®クリーム他)のみで、耐性菌の心配がありました。他の抗菌薬として、内服に用いる抗生剤のカプセル(ダラシン®カプセル)の中身を取り出して精製水で溶解、ニキビに塗ってもらっていました。(ちょっぴり懐かしい思い出です。)

当時に比べ、抗菌の外用薬の種類は増えました。(ダラシン®Tゲルやローションの登場で脱カプセルの必要もなくなりました。)
抗菌の外用薬は炎症を起こした赤いニキビに用いられますが、その前段階のコメド(面皰)にアプローチできる外用薬も登場しています。ただ、刺激や乾燥を感じる方が多いので、保湿剤や日焼け止めも使います。適切な使用で、刺激感は徐々に軽減していくといわれています。

このようにニキビ治療の選択肢が増えたものの、ニキビあとの治療は確立されていないのが現状です。ですから、ニキビが悪化する前の対策が重要になります。
また、医療用医薬品にくらべて、ドラッグストア等で購入できるニキビの一般用医薬品も変わり映えしない印象です。
日常生活の工夫で解決できないニキビなら、治療の満足度や費用面を考えると、皮膚科の受診が最適だと思います。

最後に…

思春期からのニキビについて、お話いたしました。

20年前に質問してくれた少年は、製薬会社から転職してきたばかりの私に、患者さんの悩みや不安に寄り添う服薬指導の大切さを教えてくれました。
その時の彼のひたむきな目が記憶にあったからこそ、「ニキビが…」と口にした息子にきちんと向き合えたとも思います。

小さくても、少なくても、そのニキビが子供を悩ませているのなら、子供の言葉に耳を傾け、皮膚科の受診を考えていただきたいと思います。

ニキビが“青春のシンボル”から“青春のコンプレックス”になってしまわないように…。

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今回の記事は「皮膚科学に特化した製薬企業マルホ ニキビ治療の総合情報サイト」を参考にいたしました。

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