患者な薬剤師③ 〜新型コロナワクチン接種編〜

薬局から

若い時分、ドクターとお話するのは問い合わせの電話対応やMR同行(製薬会社時代)であったり、疑義照会(薬局で←「薬剤師って…」参照)の時でした。

年を重ねるようになって、自分や家族が受診する際にドクターと話す比率が増えてきました。

当然、仕事での会話と患者やその家族としての会話は、話す内容も違えば、感じ方も違います。

今日は、新型コロナワクチンのお話です。

「ワクチン接種を希望しますか?」と尋ねられ…

今年の2月頃に、ワクチン接種の希望の有無を問う事前調査用紙が薬局に送られてきました。

医療従事者が先行とは承知していましたが、調剤薬局勤務は優先順位としては低いはずで「まだまだ先の話だし、ゆっくり考えられるかな」と思っていた矢先でした。

新しいタイプのワクチンで気になるのは副反応です。副反応のリスクと感染のリスクを天秤にかけて、それでも接種する意義はあるのか…。

例えば日本脳炎は感染すると約1000人に1人が発症し、発症した方の20-40%は死に至ります。そして、生存者の45~70%に精神障害などの後遺症が残ってしまうといわれています。(厚生労働省ホームページより)当時小学生だった息子が最後の日本脳炎予防接種を渋った時の説得材料がこれでした。

かたや新型コロナウイルス感染症と診断された方で重症化するのは約1.6%、死に至るのは約1%といわれています。

ただし、ワクチンの目的は個人の感染リスクを下げる事だけではありません。感染の流行を防ぐという社会的な目的もあります。

インフルエンザ予防接種の有効率は60%程度です。ですが、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については82%の死亡を阻止する効果があったとされており、重症化を防ぐ効果があります。(インフルエンザQ&A(厚生労働省)より)そして、広い世代で接種を行えば流行拡大を抑える事ができます。中学生になった息子が日本脳炎予防接種の時の私のセリフを盾にとり、「罹っても数日寝込むぐらいで、しかも予防接種しても罹る事があるなら要らんやろ」と接種を渋った時の反論材料がこれでした。

公衆衛生学を少しでも学んだ者なら感染拡大防止の為に接種すべきかな…、アレルギー等接種を避けるべき理由もないし…、でもね…。

誰しも未知のものに対しては不安を感じるものです。まずは知る事から始めよう!

折しも薬剤師会から新型コロナワクチンについてのWEB(便利な世の中だ)講演会のお知らせが。

講演会で、演者の先生曰く…。

※新型コロナワクチンに用いられる「mRNAメッセンジャーRNAワクチン」(現在使われているファイザー社とモデルナ社の製剤ですね。)は、確かに新しいタイプのワクチンですが、臨床試験例(インフルエンザやジカ熱のmRNAワクチン等)は多数あり、決してポッとでた真新しい技術ではありません。

※mRNAとは、タンパク質を生成するために使用する情報を運ぶ設計図のようなものです。接種後、体内で分解されてしまうので蓄積されません。

※mRNAが体内に入り、コロナウイルスを構成する一部の蛋白質(ウイルス表面のトゲトゲした突起部分で、スパイク蛋白と呼ばれています)だけを作りだし、その蛋白質に対する抗体が産生される事で免疫が獲得されます。一部の蛋白質だけなので発病する事はありません

※臨床試験から承認までの期間は短いものの、症例数は他の薬剤の臨床試験に比べて多いです。

※海外の臨床試験の結果ではファイザー社製・モデルナ社製共に有効率は90%以上です。

…勉強になりました。

そして、接種希望で申し込みました。

先に接種した友人・知人・先輩達は…

以下、先に接種した知り合い達のお話。医療従事者とはいえ、あくまで一個人の経験談で、専門的な知見ではありません…。

薬剤師B(50代女性):「1回目の後、五十肩かと思うぐらい、腕があがらなかった。2回目、しんどかったからカロナール(アセトアミノフェン製剤)を飲んだけれど、微熱と倦怠感で翌日はほぼ寝ていた。」

薬剤師C(50代女性):「1回目も2回目も腕の痛みは気にならず。インフルの予防接種の方が腫れ上がってたと思う。発熱もなかった。」

薬剤師D(30代男性):「1回目も2回目も腕の痛みは殆どなかった。2回目の晩に少し頭が痛かったしカロナールを飲んで寝た。次の日は何ともなかった。」

薬剤師E(60代女性):「2回目の後に高熱が2日続いた。本当にエライ目にあった。」

薬剤師F(60代女性):「1回目も2回目も接種部位の違和感はあったけど痛む程ではなかったし、発熱もなく、全く問題なかった。」

薬剤師G(60代男性):「1回目で腕があがらないし、翌日は肩や首辺りまで痛みが広がった。1回目でこれだから、2回目はどうなることやら。(2回目のお話は聞けず)」

調剤事務H(50代女性):「1回目も2回目も腕の痛みは殆どなかった。ただ2回目は、熱は出なかったけれど翌日はずっと怠かった。」

いざ私も…

医療機関によって対応が変わるかもしれませんが、私が指定された医院では1回目を利き手の、2回目を反対の腕に接種をする…と説明がありました。同じ部位の筋肉注射を避ける、2回目の方が副反応がでやすいので利き手と逆の腕にする…というお考えのようでした。

1回目・2回目共に、接種部位の疼痛はほとんどなく(個人的にはインフルエンザの予防接種の方が「痛い」かも。)、2〜3日腕が上がり辛い感じでした。

発熱は2回目の時です。

接種した晩に倦怠感と軽い頭痛があったのでカロナールを服用、翌朝は特に体調の異変はありませんでした。

おかしい…と感じ始めたのはお昼前からです。

11時頃…首から頭にかけて鈍痛、倦怠感がありカロナールを服用。

18時頃…倦怠感が増し、節々が痛みだす。インフルエンザにかかった時の初期症状のような感じ。体温は36度8分。この日2回目のカロナールを服用。

20時頃…体温は37度5分。

23時過ぎ…体温は38度3分。この日3回目のカロナール服用。

日付変わり1時過ぎ…喉の乾きで目が覚め、体温測定したところ、37度まで下がる。

6時…体温36度3分。解熱後の軽い怠さは残るが、その他体調変化なし。

…カロナールは効いていたのかな、しんどかったけれど。症状がでて早めに服用したからといって、症状を抑えきれる訳ではないような。服用しなければ、もっとしんどい思いをしたのかもしれないけれど。

喉元過ぎれば…ではないですが、こんな感じで私の接種は終わりました。

最後に…薬剤師の視点から

新型コロナワクチンの投与開始初期の重点的調査」(厚生労働省)で報告された副反応の発現率は、37.5℃以上の発熱が4割以上、接種部位疼痛9割、倦怠感7割、頭痛5割強です。1回目より2回目、高齢者より若い世代、ファイザー社製ワクチンよりもモデルナ社製ワクチンの方が発現率が高い傾向にあります。これらの副反応は、接種後2日以内にほぼ改善するといわれています。ですが、モデルナ社製で発赤や痒みが接種後数日続くケースが報告されています。

副反応出現時の解熱鎮痛剤は、アセトアミノフェン製剤が禁忌の方が少なく安全性が高いので使いやすいのですが、その他の解熱剤でも構いません。続けて服用する場合は、基本的に4〜6時間あけるようにして下さい。詳しくは医師や薬剤師にお尋ね下さい。なお、症状がでる前に服用しないこと。厚生労働省も米国疾病予防管理センター(ODC)も予防的服用を推奨していません。

一般的な副反応とは別に、数十万人に1人の割合でアナフィラキシーという副反応がみられることがあります。接種後概ね30分以内にみられる、じんま疹、吐き気、下痢、呼吸困難等の急性のアレルギー症状です。適切な処置を受ければ重篤な結果にいたる事はありません。接種後、15分〜30分程度待機する必要があるのは、この為です。

先にワクチンの「有効率は90%以上」と書きましたが、これは「90%の人に有効」「接種した人の90%はかからない」という事ではありません。「非接種群の発症率よりも接種群の発症率の方が90%少なかった」という意味で「発症リスクを10分の1に減らした」事を示しているに過ぎません。変異株という不透明な要素もあります。ワクチンでコロナ禍の全てが解決できる訳ではありません。感染拡大防止の為の基本は大事です。

とはいえ、ワクチンが突破口である事は間違いないと思います。現状ではワクチン接種のメリットはデメリットを上回ると私は考えています。勿論、諸事情でワクチン接種ができない方(接種のデメリットがメリットを上回る方ですね)はいらっしゃいます。でも、接種可能な人達のワクチン接種率が上がり流行拡大が抑えられれば、接種できない人達の感染リスクを減らす事につながります。接種率が20%上がるごとに、ワクチンを受けていない集団の新型コロナの感染が約2倍減少したという報告もあります。(「新型コロナワクチンQ&A 感染症専門医が解説! 分かってきたワクチンの効果と副反応」(厚生労働省)より)

残念ながら、新型コロナワクチンに関しては様々な情報が飛び交っています。ワクチンを完全に否定する情報の多くは、科学的根拠に欠けているようです。

それらの中には「将来の不妊」等、長期の影響を取り上げているものが多いようですが、そもそもmRNAは接種後数日以内に分解され、作られるスパイク蛋白も接種後2週間でなくなるといわれています。またmRNAという遺伝情報を体内に接種しても、それによって人間の遺伝子の情報に変化が加わる訳ではありません。こうしたmRNAワクチンの機序からは、接種後1年以上が経ってからの副反応は想定しにくいと考えられます。実際、mRNAを使った臨床試験は2000年代から始まっていますが、長期の弊害については報告されていません。

でも、「じゃあ、絶対大丈夫なんだね?」と言われたら、「長期の弊害の可能性は限りなく低い」としか答えられないのが本当のところです。

新型コロナワクチンは勿論の事、新型コロナウイルス自体が、科学の世界ではまだまだ新しい分野です。

今まで正しいと考えられていた事が間違いであったと判ったり、新たな考え方がでできたりする事もあるでしょう。

科学の世界ではよくある事ですが、両極端の結果が学会や文献で発表されたりします。「(はっきりと)わからない」が正解かもしれません。むしろ、「これが正しい!」と明確に主張していたり、わかりやすく一般受けしやすい結論こそ、間違い(ニセ科学)である危険があるのかもしれません。

・・・そんな思いを忘れずに、今日も「新型コロナウイルス」報道に耳を傾けています。

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