漢方の基本的な考え方は「陰陽五行説」に基づいています。「陰陽五行説」は、「陰陽」と「五行」の2つの概念から成り立っています。
西洋医学はもとより、現代の科学とは異なる独特の自然観で、若い頃は哲学というか宗教というか何かよくわからない(そう、哲学も宗教も私にとって迂闊に口にしてはならない不勉強な領域で、それと同じく不思議な世界かも)気配を感じ、何となくスルーしたまま漢方(当時は日本漢方)の世界に入ってしまいました。
そして今、より理論的な漢方である中医学を始めるにあたり、「陰陽五行説」の学び直しです。
「陰陽」とは
「陰陽」という概念はいたってシンプル。万物は対立した性質をもつ2つの要素に分けられる…という考え方です。この2つの要素が陰と陽です。
陽…放散のイメージ。運動しているもの、外に向かうもの、上昇するもの、温熱性のもの、明るい性質のもの。
陰…凝集のイメージ。静止しているもの、内に向かうもの、下降するもの、寒涼性のもの、暗い性質のもの。
例えば「天・昼・熱・動・上昇」は「陽」、「地・夜・寒・静・下降」は「陰」に分類されます。
陰陽という言葉(漢字)のイメージから、陰より陽の方が良いと思われがちですが、どちらも必要な要素であり、どちらが望ましいということではありません。
陰と陽は、対立して、互いを制約する関係であるものの、だからこそ一方だけが存在するという事はできないからです。(「上」がなければ「下」はないですよね。)
そして、陰陽の量や質は絶えず変化していきます。 例えば冬から春になりやがて夏になる(陰→陽)、夏から秋になりそして冬になる(陽→陰)という移り変わりも陰陽の表れです。
陰陽太極図です。
白い部分は「陽」を黒い部分は「陰」を表しています
太極図には、自然界の全ては陰と陽の正反対の気で成り立つ事(対立)・他方の存在が一方の存在を明らかにしている事(互根互用)・陰陽の気は絶えず変化する運動の中で平衡を保っている事(消長平衡)・一方が極まると反対の性質に転化する事(陰陽転化)を意味しています。
このように、陰陽は優劣の関係を変化させてバランスを保っています。
「五行」とは
陰陽をさらに5つの特性に分類したのが「五行」学説です。五行とは「木」「火」「土」「金」「水」の基本物質を指します。
五行学説は、自然界の全ての事物・事象はこの5つに分類され、各々促進的に作用し合ったり(相生関係)、抑制的に作用し合ったり(相克関係)して調和されているという概念です。
相生関係…相手を生み育てる関係です。木→火→土→金→水→木と循環します。すなわち、木を燃やせは火が生じ、火が燃え尽きれば土を生じ、土から鉱物(金属)を生じ、鉱脈(金属)から水脈を生じ、水は木を成長させる…を繰り返すイメージです。
相克関係…相手を抑制する関係です。木→土→水→火→金→木と循環します。すなわち、木は土から養分を奪い、土は水をせき止め(又は汚し)、水は火を消し、火は金属を溶かし、金属(刃物)は木を切り倒す・・・を繰り返すイメージです。
五行の特性は、上にあげたイメージから抽象化されています。
例えば、「木」は「木そのもの」ではなく、枝が伸びていくことから「伸びやか」で「上昇する」要素のあるものとされています。
木: 成長する樹木のように、生長・伸長・柔軟といった性質をもつ要素
火: 炎のように、熱をもち、上昇し、明るい性質をもつ要素
土: 作物を育てる大地のように、生み出し、受け入れる性質をもつ要素
金: 金属のように変化していくもの、重厚感があり、収斂性があり清潔な性質をもつ要素。
水: 流水のように下に向かうもの、潤し、冷やす性質をもつ要素。
図のように、これら五行が変化しながらも一定の法則に従って循環して、自然界のバランスを保っているといえます。
「陰陽五行」を人体にあてはめてみると・・・
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
抽象的過ぎて訳わからん感じになっちゃいましたが、もうしばらくお付き合いを・・・。
人間も自然界の一部です。ですので、自然界の法則である陰陽五行を人体にもあてはめることができます。
陽…機能としての人体・体の表面・背部・「気」と呼ばれる活動エネルギー・臓(いわゆる内臓。栄養物を貯蔵し、精気を与える器官)
陰…物質としての人体・体の内部・胸腹部・「血」「水」と呼ばれる血液や体液・腑(中空の管状、袋状の内臓。胃や腸等、ものが通り過ぎる器官)
病は体の中で陰陽の偏りがあると起こる為、陰陽のバランスを整えることが大事です。
木: 肝・胆嚢・目
火: 心・小腸・舌
土: 脾・胃・口
金: 肺・大腸・鼻
水: 腎・膀胱・耳
五行で分類されている臓器は漢方でいうところの「五臓六腑」の臓器のことで、西洋医学における臓器とは(同じ名前でも)異なりますので、また別の機会にお話できればと思います。(中医学 事始め④ ~西洋医学の解剖図がなじんだ頭に、東洋医学の五臓六腑がしみわたるまで~)
ここでいえるのは、各々の臓器が五行の図のように互いに影響を及ぼしあってバランスを保っているということです。
一つの臓器に不調が表れると他の臓器にも不調が表れることになりますので、治療の対象は不調の原因となっている臓器だけでなく、関連している他の臓器も治療対象になる場合も多々あります。
まとめ
・・・如何でしたか?ごちゃごちゃ書いてしまいましたが、要は「バランスがとれた状態が健康体。バランスが崩れると病気になる」ということですね。(ちょっと乱暴な結論かな…。)
実際は、全てを陰陽五行論に当てはめるのは無理があり、矛盾もでてきます。
個人的には連想ゲーム的拡大解釈?と感じてしまうこともあります。勉強不足の故かもしれませんが…(汗)。
ともすれば、非科学的とも受け取られてしまう陰陽五行説ですが、この原則で行われている漢方の治療で効果を得ているのは事実です。
でなければ、古代の人達の知恵が連綿と受け継がれ進化していくはずがありません。
そして、検査機器等の科学技術のない時代に観察と考察だけで自然界の法則・治療の原則に辿りついた古代人の慧眼には感服しかありません。
観察と考察、バランスの重視…。これらの漢方的な視点は、日々の健康管理にも必要ではないでしょうか。
古代人の知恵を上手に借りながら、健やかな毎日を過ごしたいものです。
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