中医学 事始め③ 〜人の身体は気・血・水で動いている?(気血水弁証)〜

漢方

人という生物は、呼吸や食事からエネルギーを産生したり、筋肉をはじめとする人体の構成成分を作り出します。そして、その生理活動は細胞レベルで酵素や遺伝子の働きが上手に連携プレーを行う(恒常性といいます)ことで維持されています。

これらの理屈が医学的に解明されたのは、ここ100年程の間です。
では、昔の人々は人体の生命活動をどのように捉えていたのでしょうか。

中医学では「気・けつすい津液しんえき)」の3つの要素が体内を巡ることによって、生命や心身の健康が維持されると考えられています。

日本漢方でも同様の考え方をしますので、私にとっては比較的馴染みやすいワードが多い、「おさらい」のような今回のお話。お付き合いくだされば嬉しいです。

気血水

気→エネルギーです

「気」とは人の生命活動を維持する力、エネルギーをさします。
この「気」によって、各臓器が機能し、スムーズに血液や水分の流れ、新陳代謝が促されます。

では、この「気」はどこからくるのでしょうか。
その由来は2つに大別されます
先天せんてんの気:両親から受け継いで、生まれながら持っているエネルギー
後天こうてんの気:生まれた後に外部から得るエネルギー

先天の気は生まれ持っているエネルギーなので、個体差(体質)があり、「腎」に蓄えられて年齢と共に減少していきます。いくつかある「気」のうちで「元気」と呼ばれるものです。
後天の気は、呼吸により取り入れた気(清気せいき)と摂取した飲食物から取り入れる気(水穀すいこくの気)からなり、これを「宗気そうき」と呼びます。宗気は胸部(「心」「肺」)から体を巡り、それにより各臓器が機能し、精神活動も維持されます。また、「気」は「血」をつくる重要な要素でもあり、「血」と共に各臓器へ栄養を行き渡らせるのですが、この「気」を特に「営気えいき」と呼びます。

そして「気」には5つの働きがあります。
①各臓器を機能させる「推動すいどう作用」。
②体を温め、体温を維持する「温煦おんく作用」。
③「血」や「水」が本来あるべきところから漏れ出ない(出血や異常発汗等)ようにする「固摂こせつ作用
④体表部を巡って、害となる環境因子(外邪)から体を守る「防御作用」。(このバリア機能をもつ「気」を「衛気えき」といいます。)
⑤飲食物を「気」「血」「水」「精」(体をつくる根本的な物質)に変換させる、すなわち新陳代謝に関与する「気化作用」。

何らかの体のトラブルで気が足りなくなったり(気虚ききょ)、気の巡りが悪くなったり(気滞きたい)すると、この5つの働きが低下して様々な不調がでてきます。
気虚
全身又はある臓器にある気の働きが低下している状態。めまい・気力や元気がない・冷えやすい・消化不良・異常な汗・抵抗力が落ちる…等の症状があらわれます。
気滞
人の体のある部分やある臓器の気が滞り、気の巡りが悪い状態。イライラしてしまったり、体に張りや痛みを感じる時は気の巡りが滞っている事が多いです。

血→血液だけではありません

「血」は各臓器や組織に栄養分を与える赤い液体のことです。現代医学の血液と似た性質+α…と考えます。


「血」には大きく分けて2つの働きがあります。
①全身に栄養を運び、老廃物を回収する作用。これにより全身に潤いを与えます。
②精神活動を支える作用。

何らかのトラブルで血が足りなくなったり(血虚けっきょ)、血の流れが悪くなってしまう(血瘀けつお)と、この働きが悪くなり不調があらわれます。
血虚
体内で血が不足し、循環機能が低下している状態。めまい・動悸・不眠・目のかすみ・四肢のしびれ・乾燥…等の症状があらわれます。
血瘀
血の流れが悪くなり、局所に停滞してしまう状態。肩こり・局所の痛み・シミやそばかず・月経痛…等の症状があらわれます。

水(津液)→血以外の水分 潤いとも

「水(津液)」は体内における「血」以外の液体成分をさします。胃液やリンパ液、汗、唾液…これらも水(津液)です。

「水(津液)」には大きく分けて2つの働きがあります。
①各臓器・筋肉・毛髪・粘膜等、体全体を潤す作用。
②体内を循環し、熱や興奮を冷ます作用。

何らかのトラブルで、水(津液)が不足したり(津液不足=陰虚いんきょ)、水(津液)の巡りが悪くなり局所的に過剰に停留してしまう(水滞すいたい)と、この働きが悪くなり不調があらわれます。
陰虚
津液の量が不足している状態。口渇・皮膚乾燥・便秘…等の症状があらわれます。また、体内の熱を冷ますことができなくなり、ほてりやのぼせがでてくることもあります。
水滞
津液の代謝や排泄に異常をきたし、津液が局所に停留してしまう状態。頭重感・浮腫・吐き気・倦怠感…等の症状があらわれます。

気・血・水…やはり基本はバランスです

前回、陰陽五行についてお話しました(「中医学 事始め②」)が、「気」は「陽」に、「血・水」は「陰」に分類されます。陰陽は、バランスがとれていることが大事です。「気・血・水(津液)」も下の図のようにバランスを保ちながら体の中を巡っています。

気血水

このバランスが崩れる=「気」「血」「水」のどれかが不調になると、他にも影響を及ぼします。
例えば、気の巡りが悪い状態(気滞)が続くと水の巡りが悪くなって(水滞)むくみやすくなったり、気が足りなくなる(気虚)と血の巡りも悪くなって(瘀血)痛みが強くでたりします。

漢方治療の原則は「バランスを保ち、体の働きを正常に戻す」ことです。
足りないものを補い、多すぎるものを取り去ってバランスをとっていきます。

その為には、どこのバランスが崩れているか把握する必要があります。把握することによって、不調をケアし未然に防ぐ養生の仕方を選ぶことができます。
漢方薬を服用するだけが「漢方」ではありません。その前に出来る事があります。(勿論、既に不調が顕著になっている場合は漢方薬を飲んだ方が早く解決できますが。)

これらの概念は検査・診断技術をもたない古代の人々の知恵であり、観察とイメージの集大成です。
言い換えれば、この集大成を活用できれば病院で検査する前に自分でケアできる訳です。ただし、病院に行くべきかどうかの判断も大事で、これも日頃から観察で判断材料は増えていきます。

漢方の考え方がセルフメディケーションの一助になればと思っています。

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