コロナ禍でセルフメディケーションの意識が高まったと言われています。
緊急性の低い症状は市販薬を使って経過を見る、必要に応じて受診する・・・そうした工夫を身につける事が大切だと思います。
応急処置に使う救急箱に常備するお薬は家族誰もが使えるもの、汎用性の高いものが理想です。そうした意味でも漢方薬はおすすめです。
以前に救急箱に入れておくとよい漢方薬をご紹介しました。(「救急箱にも漢方薬を 常備しておきたい漢方薬は?」)
我が家の救急箱にも漢方薬がいくつか入っています。今回は「葛根湯」のお話です。
どんな薬?
漢方薬の中で一番知名度が高いと言っても過言ではない葛根湯は、7つの生薬で構成されています。
麻黄(まおう):強い発汗作用と鎮咳作用。
葛根(かっこん):肩や首筋の凝り、鼻づまりを和らげる作用。体表の熱を外に逃がす。
桂皮(けいひ):身体を温めて悪寒や頭痛を和らげる作用。軽い発汗作用。健胃作用。
芍薬(しゃくやく):筋肉の痙攣や痛みを緩和する作用。麻黄や桂皮による過度の発汗を抑える。
生姜(しょうきょう):身体を温め発汗を促す作用。健胃作用。
大棗(たいそう):健胃作用。滋養強壮。
甘草(かんぞう):筋肉の痙攣や痛みを緩和する作用。
温めることにより、体表面の寒さ(寒邪)を発散させる方剤です。
麻黄と桂皮の組み合わせは、単独よりも相乗効果で発汗作用が強くなります。この組み合わせは「麻黄湯」(麻黄・桂皮・杏仁・甘草)にも用いられています。
葛根湯には過度の発汗を抑える芍薬が含まれていることから、麻黄湯のように強力に発汗させ過ぎない工夫がなされていえます。
逆に、葛根湯から麻黄(と葛根)を除いた「桂枝湯」は、発汗作用が穏やかで、葛根湯よりも優しい方剤となります。
どんな時に使う?
「傷寒論」(張仲景が記した中国医学の古典)では、こう述べられています。
項背強バルコト几几、汗無ク悪風スルハ、葛根湯之を司ル。
・・・項から背中にかけて強張り、発汗がなく寒気のする者には、葛根湯を用いる。
(几几は「きき」とも読む。強張りを形容している。)
葛根湯の使用目標は「頭痛・発熱・悪寒・首や肩の凝り・無汗」です。
上半身の、特に首から上の痛みや炎症に良いといわれており、肩こりや風邪の初期の他、結膜炎・中耳炎・乳腺炎・上半身の神経痛等にも用いられます。
汎用性の高い方剤ともいえますが、あくまで証(体質や症状)が合った場合です。上に挙げた疾患の方全てに葛根湯が効くのではありません。
証が合わない方に葛根湯を用いると効かないばかりか、症状が悪化することもあります。
特に気をつけたいのは「無汗」です。
判断の方法の一つは脇の下が湿っているかどうか…です。脇の下が湿っていたり、背中にジトリと汗をかいているような方には葛根湯が不向きな場合があります。発汗し過ぎると津液(身体の水分)を損なって体力を消耗してしまう恐れがあるからです。
また、麻黄には胃の不快感や不眠、動悸等の副作用がみられることがあり、体力のない方や胃腸虚弱の方も注意が必要です。
注意点を述べましたが、逆を言えば証さえ合っていれば疾患名がつかない段階から服用を始めることができます。
寒気がして身体が強張る、頭痛がする…そんな時、先ずは葛根湯を飲んでみる。
温かい食事をとって、早めに寝る。汗をかいたら着替えて身体が冷えないようにする。
先手必勝が肝心なので、風邪での葛根湯は、受診して処方してもらうのでなく、予め購入して常備するのが良いです。
…これこそ、セルフメディケーションですね。
最後に…我が家の場合
知名度No.1といっても良い葛根湯ですが、我が家では要注意漢方薬の一つです。
私は、葛根湯を飲むのは夕食後までにしています。
寝る前に服用して、寝つけなくなった時があったからです。
葛根湯が「眠くならない風邪薬」といわれるのは、一般的な風邪薬に含まれる抗ヒスタミン剤(眠気の副作用があります)ではないからだけでなく、構成生薬の麻黄による興奮作用の為ともいえます。
薬局で「葛根湯を飲むと、シャキッとできるからいいのよ~」と言う初老のおば様がいらっしゃいました。このぐらいのお年の方だと「何だかしんどい」「身体が重い」等の体調不良で精神神経系の薬が処方されてしまうことがあり、葛根湯で元気になるならその方がいいか…と思ったことがあります。勿論「飲み過ぎると胸がドキドキしたりするかもしれないから気をつけて」と注意させていただきましたが。
我が夫も、どちらかというと葛根湯が「合わない」人です。
痩せ型で汗かき、胃腸が強くない彼は、「何だか風邪っぽい」を度々口にするタイプです。そして、そういう時に桂枝湯を飲んで寝て、次の日は「大丈夫だった。桂枝湯を飲んでおいて良かった。」と言う人です。
ある時「ちょっと桂枝湯が欲しいのだけど、もうないの?」と言われ、家のストックがなくなっていることに気づきました。
「ない」と言ったら「風邪っぽいのに、薬がない。もうダメだ…。」と言うだろうなと、「これも同じような効き目だから(と言っておく)」と葛根湯を渡しました。何か飲んだら安心するだろうし、葛根湯なら「あたらずといえども遠からずだ」と。
でも、数時間後に「変だな、脱力感がするのだけど」と言われました。
発汗し過ぎて消耗しちゃったらしい。知識としてはあったけれど、実際にそうなる人を初めて見た。
葛根湯、侮るべからず。夫よ、ごめん。
…数年前の話です。葛根湯ではなく、生姜湯にシナモン(桂皮の代用)を混ぜて「これ飲んでおいて。明日買っておくから。」と言った方が良かったかなと、今なら思います。
以来、「取敢えず、葛根湯」は我が家ではなくなりました。
とはいえ、葛根湯は救急箱に入れておきたい薬です。
首や肩の凝りからの頭痛に。ゾクゾクと悪寒を感じた時の風邪の初期に。
寒さで身体が強張り(冬に外で長時間いたり、冷たい雨にあたったりした時等)「風邪ひいちゃったかな」と思った時は、お湯で葛根湯と生姜湯を一緒に溶かして飲んでみたり。一度の服用で済むことも多いです。
葛根湯、良い薬です。
コメント
専門家のご意見勉強になりました。家の救急箱にも葛根湯を入れておこうと思います。
ありがとうございます!
常温以上の温かいもので服用してください(^o^)
葛根湯、重宝してますね~。
風邪かな?って思ったらとりあえず飲む、みたいな(笑)
あ、そうそう、今日、奈良の道の駅飛鳥の飛鳥びとの館で「大和当帰葉十味」を買いました!!
帰って来たばかりでまだ試していないですが、楽しみです(*^^)v
情報ありがとうございます(^_-)-☆
コメントありがとうございます✨
確かに、葛根湯は先手必勝・短期決戦の薬ですね。
葛根湯の処方箋が意外に少ない(肩こりは別)印象も受診時には時期を過ぎているからかなと。そういう意味でも普段から救急箱に入れておきたい薬かなと思います。
大和当帰葉十味、温かいお饂飩によく合います😍