お薬を飲むのは、お水じゃなきゃダメ?…お薬の正しい飲み方は

薬局から

「お薬はお水で飲みましょう」
…その通りです。
でも、お水がない時は?お水でなきゃダメ?
今回は、ちょっと驚いた女の子のお話です。

薬を口に放り込んで、そのまま飲み込もうとした女の子

息子が小さい頃、柄にもなく(インドア派なのに)ボーイスカウトの引率をしていました。
その時のことです。
集合までの朝の準備が忙しかったのでしょうか。
活動場所で小学生の女の子が「あっ、お薬飲まないといけないんだった!」と、錠剤を取り出して口に放り込み、飲み込んだのです。
「ちょっと、水筒持ってるでしょ!!」と言う私。
だけど、彼女はこう言います。

「だって、これ麦茶だよ。水じゃないもん。」

そう、彼女は水でないもので飲むことよりも、そのまま飲み込むことを選んだのです。

お水以外でお薬を飲むと…?

「薬はお水で飲みましょう」で使われるプチ実験がこれです。
貧血治療に用いられる鉄剤のシロップです。

お薬教室 水以外でお薬を飲むと

水を加えると➡

お薬教室 水以外でお薬を飲むと

これが通常の飲み方ですね。
ところが、緑茶で飲んだ場合は…。

お薬教室 水以外でお薬を飲むと

緑茶を加えると➡

お薬教室 水以外でお薬を飲むと

真っ黒ですね。
緑茶に含まれるタンニン酸が鉄と結合して沈殿(体内で吸収されにくくなります)を生じてしまう結果です。

今も行われているかどうか定かではありませんが、私が小学校の学校薬剤師を担当していた頃は、お薬教室や薬剤師会が行う薬のイベントで披露されていました。
ビジュアル的にインパクトがあって、「だから、お水で飲まなきゃいけないんだ!」と素直な子供達はうなずき合う訳です。

そのまま飲み込んでしまったら、どうなる?

先程の女の子がこのプチ実験を知っていたかどうかはわかりませんが、「水でなければいけない」という思いから、麦茶を使わずに錠剤をそのまま飲み込んでしまいました。

「そのまま飲み込む」…これは実に危険です。何故なら、口の中や食道に薬がひっついてしまうからです。
厄介なことに、ひっついてしまった薬は、後から水を流し込んでも簡単にははずれません。

特にカプセル剤は注意が必要です。これも、よく使われるプチ実験です。

少しだけ水で濡らした指先でカプセルに触れてみます。

お薬教室 水なしで薬を飲むと

ひっつきます。これが、水なしで薬を飲み込んだ時の口の中や食道で起こり得る状態です。
結構しっかりとひっついてしまうことが多いです。口から水が流れ込むイメージで、水道の水に近づけても、この通り↓です。

お薬教室 水なしで薬を飲むと

口の中や食道に張り付いたままの薬は、やがて溶解していきます。そして、その周囲の組織(粘膜)の炎症や潰瘍を引き起こす恐れがあります。
ロキソニン®やボルタレン®等の鎮痛剤を使う際、医師や薬剤師から「多めの水で飲んでください」と言われる理由がこれです。

絶対に水でないとダメなの?

結論から申し上げると、水以外の液体でも問題ないことの方が多いです。

先程の鉄剤と緑茶についても、確かに吸収は下がるので水で飲むのが理想ですが、緑茶で飲んでも治療に支障がでるレベルではないといわれています。むしろ、「手元に緑茶しかなかったから、薬を飲まなかった」(実際におられます)場合の方が障りがでます。
ミニ実験のように黒くなった液体を目にすると驚かれるかもしれませんが、そもそも鉄剤なので便だって黒くなることはよくあります。心配ご無用です。

繰り返しになりますが、お薬は「水」で飲むのが大前提です。
ですが、それがままならない時、どういったものでなら飲んでよいか、まとめてみました。

①水と同様、まずは心配いらないもの
→麦茶・カフェインやタンニンを含まないお茶
②水がない場合、そのまま飲み込んだり、服用を止めるよりは使った方がよいもの
→緑茶・ほうじ茶・番茶・烏龍茶
③お薬の味が変わって(多くは苦くなる)飲みにくくなるので、避けた方が良いもの
→酸味のあるジュース・スポーツドリンク
(逆に飲みやすくなるお薬もあります。薬剤師にご相談ください。)
④お薬の効き方に影響する場合があるので、避けた方が良いもの
→牛乳・グレープフルーツジュース
(薬剤名等、詳細は薬剤師にご相談ください。)
⑤絶対に避けるべきもの
→アルコール

あくまでも目安ですので、実際にお薬を飲まれる際に迷われた時は、薬剤師にご相談ください。

最後に

お水で飲まないといけないから、そのまま飲み込んだ…は、医療関係者としては想像がつきにくい行為です。ですが、医療関係者の説明から患者さんが思いもよらない行動をとられることは、決して少なくありません。
自分達の常識が患者さん達の常識ではないことを改めて感じた出来事でした。

また、最近は水なしでも服用できる製剤(口腔内崩壊錠やOD錠)が数多く登場しています。
さらに稀なケースですが、少量の水で飲むべき薬や水で飲んではいけない薬もでてきました。

お薬を含め、医療は日々進化しています。
知識のアップデートを怠らず、最適な情報をお届けしたいです。

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