花粉症に漢方ができること〜生活の質を下げない工夫は?〜

漢方

本格的な春の花粉症シーズンとなりました。
調剤薬局で働いていると、処方箋の内容で季節を感じることが多々あります。

今回のお話は、季節性のアレルギー=花粉症における漢方の関わり合いについてです。

そもそも花粉症って?

花粉症とは、その名の通り「花粉によって引き起こされるアレルギー症状」です。季節性のアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎をさすことが多いです。
原因となっている花粉は様々な植物のものがあります。日本で花粉量が圧倒的に多いのがスギ、ヒノキ花粉で、春にみられることから「花粉症=春」のイメージがありますが、初夏のカモガヤや秋のブタクサ等、一年を通じて色々な花粉症があります。
全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした2008年(1月~4月)の鼻アレルギーの全国疫学調査によるとアレルギー性鼻炎全体の有病率は39.4%であり、花粉症全体の有病率は29.8%、そしてスギ花粉症の有病率は26.5%だそうです。(「花粉症環境保健マニュアル2019」(環境省)より)

花粉症で使われる主なお薬

一般的に用いられるのは「抗アレルギー薬」と呼ばれる内服薬です。症状が酷い場合は免疫反応(アレルギーも免疫反応の一つです)や炎症を強く抑えるステロイドが使われますが、副作用を考えると内服での使用は極力か避けるか一時的な使用に限定されます。
点鼻薬にも抗アレルギー薬やステロイドが用いられますが、効果が大きいステロイドの方が良く使われている印象です。内服と違い、点鼻に用いるステロイド剤は全身の重篤な副作用は殆どないので、むやみに恐れず適切に使って、症状を和らげてもらいたいと思います。
点眼薬にも抗アレルギー剤とステロイド剤がありますが、ステロイドの点眼薬は眼圧を上げてしまうので注意が必要です。一般的には抗アレルギー剤を使用して、症状の酷い時のみステロイド剤をします。

内服の抗アレルギー薬で問題となってくるのは、眠気や集中力の低下といった副作用です。
抗アレルギー薬は、アレルギーの原因物質が体内に入った時に放出されるヒスタミンが鼻の粘膜や皮膚に存在するヒスタミン受容体に結合するのをブロックする事で鼻炎や痒みを抑えます。
ですが、このヒスタミンは脳内の神経伝達物質の一つでもあり、脳内のヒスタミン受容体と結合して覚醒状態の維持や集中力、判断力を保つ働きを担っています。
ですので、鼻の粘膜や皮膚のヒスタミン受容体をブロックして鼻炎や痒みを抑える主作用がある一方、脳内のヒスタミン受容体までブロックされてしまうと眠気や集中力の低下といった副作用があらわれるのです。
薬局で抗アレルギー薬をお渡しする時は眠気の副作用についてお伝えし、再来局された時にはその有無を確認します。
「眠くて、ぼーっとして仕方なかった」と仰る方には別の抗アレルギーへの変更が検討されるのですが、個人的に気がかりなのは「大丈夫です」と仰る方です。
何故なら、眠気の自覚がなくても無自覚の集中力や判断力の低下が起きている場合があるからです。これを「インペアード・パフォーマンス(気づきにくいパフォーマンスの低下)」といいます。
危惧される事象として、ブレーキを踏みこむまでの時間の延長やパソコンの入力ミス等が考えられます。日常的に車の運転をされる方、機械作業に従事されている方には、是非知っていただきたい事です。
「じゃあ薬は飲まない方がいいね」という話にもなってしまいそうですが、鼻炎や痒み自体が集中力・判断力・作業効率の低下を引き起こすことも良く知られています。
やはり、ライフスタイルに合わせた薬選びが大事になってくると思います。

近年、こうした副作用を軽減する為に、脳に移行しにくいタイプの抗アレルギー薬が開発されてきました。
現在(2024年2月)、添付文書(お薬の説明書)に「眠気を催すことがあるので、自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないよう注意すること」という文言がない抗アレルギー薬は、フェキソフェナジン(商品名:アレグラ他)・ロラタジン(商品名:クラリチン他)・デスロラタジン(商品名:デザレックス)・ビラスチン(商品名:ビラノア)となります。自動車運転やパソコン作業等に及ぼす影響について検討された内容も添付文書に記載されています。
あくまで個人的な印象ですが、フェキソフェナジンやロラタジンは服用継続によりジワジワ効いてくるイメージ(症状が酷くなってからよりも「あれ?」と感じた時から飲み始める方がよい)です。ビラスチンは先の3剤よりも新しいお薬で、「どの薬も眠くて困ったけれど、これは大丈夫!」と仰る方もいらっしゃいますが、服用方法には注意が必要(食事の影響を受けやすいので空腹時服用)です。
フェキソフェナジンとロラタジンは一般用医薬品として薬局・薬店で販売されています。

花粉症に漢方薬をおすすめする理由の一つに「眠くならない」というのがありますが、ここに挙げたお薬や「自動車運転等注意」の文言があるにせよ、眠気が少なくなった薬が数年間で続々登場しています。
漢方薬は「それでも副作用で自分にあう薬がない」、「副作用はないけれど、これだけで症状がスッキリしない(もう一押しの効き目が欲しい)」・・・という方におすすめしたいと思います。

花粉症で使われる主な漢方薬

では、花粉症に使われることの多い方剤をいくつかご紹介しましょう。
手に入りやすさ・含有量に違いはありますが、医療用医薬品(受診して処方してもらえる)・一般用医薬品(薬局・薬店・インターネットで購入できる)、どちらもある方剤です。

小青竜湯しょうせいりゅうとう
花粉症に用いられる代表的な方剤で、ドラッグストアでもよく目にされるかと思います。
水様性の鼻汁(水鼻)に効果的な他、薄い痰を伴う咳にも良く、アレルギーが原因の頑固な咳にも効果的です。
ただ、比較的体力のある方向きの方剤ですので、体力の低下した虚弱な方が服用すると虚脱感や胃の不調、不眠を引き起こすことがあります。その場合は、服用回数を減らす(1日3回のところを2回にする)、連用しない、他の方剤に変更する等の対策が必要になります。
花粉症の場合、多くの方が抗アレルギー薬を1〜2か月服用します。それと同じように小青竜湯も飲み続ける方がいらっしゃいますが、基本的には長期服用する方剤ではないので、そうした別の不調があらわれないか注意が必要です。

葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい
葛根湯に鼻の通りを良くする生薬である川芎・辛夷を加えた方剤です。
鼻づまりで頭痛や肩こりがある方に良いです。副鼻腔炎にも用いられます。
「水鼻がツーっとでて困る」のが小青竜湯に対して、葛根湯加川芎辛夷は「鼻がつまって困るけれど、お風呂に入る(温まる)と鼻の通りが良くなる」という方に向いています。
こちらも比較的体力のある方に用いられる方剤ですので、小青竜湯と同様、虚弱な方や長期間服用される方は注意が必要です。

辛夷清肺湯しんいせいはいとう
鼻炎症状が強くなり、鼻づまりとドロッと色のついた鼻水(膿性の鼻汁)がでる場合に用います。
副鼻腔炎、後鼻漏、後鼻漏に伴う咳にも用いられます。葛根湯加川芎辛夷よりも症状が酷い、慢性化している場合に使われることが多いです。

麻黄附子細辛湯まおうぶしさいしんとう
体力の低下した人や冷えの強い人の鼻水・鼻づまりに用います。高齢者に使われることが多いです。
この方剤は風邪の初期にも用いられます。
風邪の初期といえば葛根湯かっこんとうを思い浮かべる方が多いかと思います。葛根湯は「発熱・悪寒・無汗(汗がでていない)」時に用いられますが、麻黄附子細辛湯は「ゾクゾクする程悪寒がして倦怠感もあるのに微熱」(高齢者の風邪では多い訴えです)という場合に適しています。
体力が低下した方向けでありますが、極端に虚弱な方だと下痢を起こしてしまうことがあります。

苓甘姜味辛夏仁湯りょうかんきょうみしんげにんとう
体力の低下した方の水様性の鼻汁(水鼻)や薄い痰を伴う咳に用いられます。「水鼻・薄い痰」は小青竜湯と同様ですね。
この方剤は小青竜湯を使いたいけれど、強過ぎる(副作用の恐れのある)と考えられる虚弱な方に適しています。「裏の小青竜湯」ともいわれる所以です。

越婢加朮湯えっぴかじゅつとう
メジャーではないのですが、 鼻炎に加え眼の炎症・痒みが強い時に用いられます。
アレルギー性結膜炎の治療は点眼薬が基本で、抗アレルギー薬の内服の効果は期待できないと言われています。そもそも抗アレルギー薬の適応(医薬品として承認された効能)は「アレルギー性鼻炎・蕁麻疹・皮膚疾患に伴う掻痒そうよう(かゆみ)」です。もっとも花粉症で目の痒みを訴える方のほとんどが鼻炎も併発して抗アレルギー薬を服用していますし、全く効果がない訳ではないと思いますが、眼の症状に対して若干の効果を期待するのであれば、内服薬よりも点鼻薬の方が良い場合もあります。
越婢加朮湯は、そうした点眼薬以外に打つの手の少ない眼の症状に使われることがあるのです。
個人的な経験ですが、「これ、良いかも!」と思ったのは我が子が幼い頃です。小児科のドクターに越婢加朮湯を処方してもらった時でした。花粉症の時期には目をこすり、腫れていた息子の瞼が一両日で改善しました。以来、私も点眼薬を使っても痒みや充血が取れない時に重宝しています。
ただ、比較的体力のある方に用いられる方剤ですので、虚弱な方や長期間服用される方は注意が必要です。

最後に・・・漢方の観点から花粉症を考える

花粉症に使われるお薬についてまとめてみました。では、花粉症という病態は漢方ではどう捉えるのでしょうか。
漢方では、花粉のように体の外からの働きかけで不調をおこすものを「外邪がいじゃ」と呼びます。外邪の種類については別の機会にお話したいと思いますが、その中でも花粉は風によって運ばれる・日によって飛散量が異なる…等の特性から「風邪ふうじゃ」に分類されます。また、気温が低い時に悪化する場合は「寒邪かんじゃ」を、結膜炎や副鼻腔炎、熱感がある場合は「熱邪ねつじゃ」を伴っていると考えます。

そして、気血水きけつすいの概念(「中医学 事始め③ 〜人の身体は気・血・水で動いている?〜」をご覧下さい)を用いると、鼻水や鼻詰まり(鼻腔粘膜の腫れ≒浮腫みが原因です)は水の異常といえます。また、外邪から身体を守るためには体表面のバリア機能(気の一つである衛気えき)が充分働いている事が大切になっていきます。

こうした症状の状態と使われる患者さんの体質等を基に、どの漢方薬が適しているか判断していきます。決して「花粉症だから小青竜湯」という訳ではないのです

漢方に詳しい医師や薬剤師、登録販売者に相談の上で服用されるのがベストですが、そうもいかず店頭に並んでいるのを取り敢えず試す場合もあると思います。ただ、4〜5日たっても改善しない場合は別の対策が必要です。「漢方薬は長く飲み続けないと効果がでない」と思われている方がいらっしゃいますが、花粉症や風邪の場合、選んだ漢方薬が合えば1〜2回の服用で効果を感じていただける事が多いです。
先の項でも触れましたが、麻黄等の強い作用をもつ生薬が含まれている漢方薬は長く服用するべきではないと考えられています。胃腸の弱い方や高齢者は特に副作用への注意が必要です。
「漢方薬は身体に優しい」と思われがちですが、花粉の時期に小青竜湯を毎日のみ続けるなら、眠気の少ない抗アレルギー薬やステロイド点鼻薬でコントロールした方が「身体に優しい」のではと、個人的には思います。

そして、効果のあった漢方薬の特徴から自分の体質や不調の原因に気付かされる事もあります。
例えば小青竜湯。これが良く効く方は冷えがあり、水分代謝が悪い傾向にあります。普段から冷たい飲み物を避け、軽い運動を続けていただくと良いです。
また、どの漢方薬のタイプでも花粉症の根底にあるのは「バリア機能(衛気)の不足」です。
衛気を養うには、睡眠をしっかりとり(良い睡眠のためにはスマホは程々に)、バランスの良い食事を良く噛んで食べ、適度に体を動かすことが大切です。

日頃の養生と薬の相乗効果で、この春、そして来年以降(やはり継続した養生は大切です)の春を少しでも快適に過ごせますように…。

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