コロナ禍でセルフメディケーションの意識が高まったと言われています。
緊急性の低い症状は市販薬を使って経過を見る、必要に応じて受診する・・・そうした工夫を身につける事が大切だと思います。
応急処置に使う救急箱に常備するお薬は家族誰もが使えるもの、汎用性の高いものが理想です。そうした意味でも漢方薬はおすすめです。
以前に救急箱に入れておくとよい漢方薬をご紹介しました。(「救急箱にも漢方薬を 常備しておきたい漢方薬は?」)
我が家の救急箱にも漢方薬がいくつか入っています。今回は「紫雲膏」のお話です。
どんな薬?
紫雲膏は華岡青洲(江戸時代の外科医。世界で初めて全身麻酔を用いた手術に成功。)が考案した外用薬です。
含まれている生薬は紫根と当帰です。これに基材としてゴマ油・豚脂・ミツロウが加わります。
独特の赤紫色は染料としても使われる紫根の色です。紫根には抗菌・抗炎症・肉芽形成(傷の治りを早くする)促進作用があります。
そして当帰には血行を良くし、血(血液及び栄養分)を補う働きがあります。
漢方でいうところの「血行の悪さ」は血の不足(血虚)につながります。血虚は皮膚の乾燥やひび割れを引き起こします。また、血が滞ると熱(炎症)を生じると考えます。この熱が湿疹や褥瘡につながります。
紫雲膏はこれらの皮膚のトラブルに用いられる外用薬です。
ちなみに華岡青洲は和歌山県の人で、紀の川市の道の駅「青洲の里」に華岡青洲の住居兼診療所である「春林軒」や資料展示室があります。
数年前、我が家の高野山旅行の折に立ち寄りました。
どんな時に使う?
紫雲膏は皮膚疾患に広く利用できる薬です。火傷や切り傷等の外傷、乾燥にともなう肌のトラブルは勿論、切れ痔等の痔疾に用いられます。便秘気味のお子さんの強いいきみによる肛門裂傷にも適しています。
但し、浸出液の多い(ジュクジュクした)患部には適しません。
火傷に関しては先ずは流水等で十分に患部を冷やすのが先決です。火傷が広範囲・水疱ができている・皮膚の色が黒や白に変色しているような時は受診が必要です
また、この赤紫色は衣服についてしまうと取れにくいので、ご注意ください。
幅広い皮膚疾患に用いられますが、保険診療で用いる場合の保険適応は「火傷、痔疾による疼痛、肛門裂傷」のみです。
ドラッグストアでも、チューブタイプの紫雲膏が手に入ります。
最後に…我が家の場合
家族の中で紫雲膏を一番よく使っていたのは私の母です。
冬場に手指や踵のあかぎれ・ひび割れが酷くなると使っていました。寝る前に紫雲膏を患部に塗り、汚れてもよい綿(独特の赤紫色は服等についてしまうと厄介です)の手袋・靴下を身につけていました。ワセリンや保湿クリームをつけるよりはひび割れのふさがりが早いようです。
私は台所でのちょっとした火傷に使っています。
根がドジなので、よく料理の途中で「アチチ」となります。すぐに流水で冷やして終わり…なのですが、ヒリヒリ感が続く時は紫雲膏を塗っておきます。
繰り返しになりますが、火傷での使用は軽度のものだけです。範囲が広い・水ぶくれがある・火傷の部位が黒や白に変色している…場合は受診してください。
この紫雲膏、薬学生時代に生薬学(だったと思う)の実習で作りました。
ゴマ油・豚脂・ミツロウを鍋に入れて弱火で加熱します。そこへ当帰を加えます。当帰が焦げて少し色が濃くなってきたところで火力を強くして紫根を入れます。液が鮮紅色になれば直ぐに火からおろして紙等でろ過します。
20年以上経った今も、ゴマ油と紫根の独特の香りで充満した実習室の様子が思い出されます。
…色と香りの思い出深い漢方薬です。
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