暑さが本格的になると、薬局でも「夏バテ」「暑気あたり」の症状を訴える方が増えてきます。
「夏バテ」や「暑気あたり」は、夏の暑さによる種々の症状の総称です。
倦怠感・頭痛・熱っぽい・食欲不振・下痢・疲れがとれない・やる気がでない等々・・・。
この「種々の症状がある」のは、漢方薬の得意分野でもあります。
ここでは、夏を乗り切る為の代表的な漢方薬をご紹介いたします。
夏バテの原因は胃腸にあった?!
以前、先輩薬剤師から「昔は、夏にお腹の調子を壊さないよう六君子湯をお茶代わりに飲んだらしいよ」と聞きました。
煎じ薬をお茶がわりに?…不思議がる私に「うーん、どうだったかな。どこで聞いたかなー。」と、記憶を辿り調べてくれました。
そして、先輩曰く「中国(の話だったんだ!)の水は一般によくないので、生水でお腹をこわすことが多い。だから、昔はちょっとした家では、夏場の客人のもてなしにお茶や漢方薬が用いられた。そのお茶代わりに用いられたのが味が良くて飲みやすい六君子湯だった」そうです。
夏バテの原因は、冷房のきいた室内と猛暑の屋外の温度差による自律神経の乱れや発汗による脱水症状といわれています。
漢方では、過剰な暑さ(暑邪)と過剰な湿度(湿邪)が身体に侵入する為と考えます。
そして「脾は燥を好み、湿を嫌う」という漢方の先人が残した言葉通り、一番ダメージを受けやすい臓器は「脾」です。また、「胃」も熱に弱い臓器なので暑邪が入り込むと働きが悪くなります。
「脾」・「胃」は、漢方理論上での臓器です。西洋医学でいう消化器系の臓器をイメージして下さい。
脾胃(≒胃腸)の調子を整える六君子湯を夏場にお茶としてふるまうのは、理にかなっているといえます。
これから具体的にご紹介する夏バテの漢方薬も、脾胃の力を養い、水分代謝や消化機能を高める方剤が中心になります。
夏バテの代表的な漢方薬
生脈散
生脈散という処方名は、「体内エネルギーや体に必要な水分の消耗を防ぎ、弱くなった脈を回復する」働きを意味しています。
脾の力を補う人参・潤いを増やす麦門冬・水分の消耗を抑える五味子の3つの生薬で構成されるシンプルな方剤です。
大量の発汗や肉体疲労で消耗した全身の機能低下を改善します。
清暑益気湯
夏バテ・暑気あたりに用いる代表的な方剤です。「暑さの原因を涼しくし(清暑)、生体のエネルギーを増やす(益気)」働きを意味しています。
生脈散に消化機能を補う生薬が加えられていて、暑さで弱った胃腸を元気にし、低下した体力を回復させます。
補中益気湯
元気を補う漢方薬の代表的な方剤です。処方名にある「中」は胃腸を意味します。
清暑益気湯と同様、全身倦怠感や食欲不振に用いられますが、口渇がなく(水分不足の状態にない)温かい飲み物を好む方が適しています。
熱中症に対する意識が高まった昨今、しっかり水分補給をされる方が増えています。良い事ではあるのですが、冷たい水分(スポーツドリンクや経口補水液は冷やして飲む事が多いのでは?)の摂り過ぎで胃腸の働きを弱らせている方も多いです。このような場合は、清暑益気湯より補中益気湯の方が良いかもしれません。
六君子湯
冒頭でご紹介した方剤です。胃腸を温め、余分な水分(痰飲といいます)を除く事で、胃腸の消化吸収機能を改善し体力を回復させます。
もともと胃腸が弱い方で、食欲がなく消化不良気味の方に用いられます。
五苓散
水分代謝異常に関する様々な症状に用いられる方剤です。水分の過多や偏在(水毒といいます)を改善し、身体の中にある水分のバランスを整えます。
発汗による脱水、冷たいものの摂り過ぎ・・・はまさしく水分のバランスが悪い状態です。
熱中症や暑さによる口渇・頭痛・吐き気、下痢に用いられます。
白虎加人参湯
体内の熱を冷まし潤いを与える石膏と知母、脾の機能を高める人参・・・といった生薬を含む方剤です。
熱中症で熱感(ほてり)が強く、口が渇き水を沢山欲する(多飲)ケースに用いられます。
まとめ
ドラッグストア等で比較的簡単に手に入りやすいもの(補中益気湯・六君子湯・五苓散)から医療機関や漢方薬局・薬店で取り扱われているもの(生脈散・清暑益気湯・白虎加人参湯)まで、夏バテ・暑気あたりに用いられる主な漢方薬をご紹介いたしました。
重度の熱中症における点滴を除いて、これといった治療法がない(胃腸症状に胃腸薬、疲労にビタミン剤・・・といった対症療法になります)西洋医学に比べ、夏バテや暑気あたりは漢方の「独断場」といえるかもしれません。
ですが、漢方薬が必要とならない普段の養生も大切です。
・水分補給は大切ですが、一度に大量の冷たい飲み物を摂るのは好ましくありません。高温環境下や運動時・熱中症の症状がある時以外は、常温以上の水分を適量でこまめにとりましょう。
・食事にも気をつけましょう。 夏に多く出回る旬の野菜(トマト、キュウリ、ナス、レタス等)は体熱を冷まし潤す働きがあります。 アイスクリーム等の冷たい食べ物の代わりに積極的に摂りたいものです。また、暑い日に冷たい冷奴(豆腐は良質のたんぱく質を含むので体力回復におすすめの食材ですが)や素麺などが続くと、胃腸が弱ってしまいます。薬味(ネギ、生姜、紫蘇、みょうが等)には胃腸を程良く温める働きがありますので、多めに添えて食べると良いでしょう。
・睡眠は充分に。今日の疲れを取り、明日の活動エネルギーを蓄える為には睡眠が不可欠です。
漢方薬を服用する事だけが「漢方」ではありません。食事や生活習慣における養生も「漢方」です。
漢方ライフで元気に夏を乗り切りたいものです。
最後におまけ・・・六君子湯は本当に「味が良くて飲みやすい」のか?
漢方薬服用のハードルの一つになっているのが「お味」です。
果たして先輩薬剤師のお話のように、六君子湯は「お茶」のように「客人にふるまう」お味なのでしょうか・・・。
残念ながら煎じ薬はすぐに手に入りませんので、エキス剤を少な目のお湯で溶かしてみる事にしました。
漢方独特の香りがしますが、思ったよりは飲みやすいかも。生姜(が入っています。生薬の場合「しょうきょう」と呼びます)の風味のお蔭かな。
「お茶」のようにガバガバ飲める味ではないけれど、ありがたく(当時は貴重なものだったでしょうし)いただくには十分な味かもしれません。
興味のある方はお試し下さいね。
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