しくじり漢方④ えっ?この咳も小青竜湯?~小青竜湯の“証”を考える~

漢方

「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。
なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。

今回は花粉症だけでない、小青竜湯しょうせいりゅうとうの使い方…。

20代~30代の頃。風邪をひいた後は必ずといってよいほど、咳が長引きました。
特に夜間が酷く、仰向けで眠れないぐらいでした。咳込みが酷く、透明な痰を吐いてしまうことも。
鎮咳薬では治まらず、「咳喘息では」と吸入剤を処方してもらうこともありました。

漢方に詳しい知人に相談すると。一言。
「小青竜湯だね。」

えっ?そうなの…と試して解決!でした。

お恥ずかしながら、当時の私は小青竜湯は「花粉症と鼻カゼの薬」と認識していました。

小青竜湯の使用目標は「水っぽい鼻汁、くしゃみ、白色の薄い痰、咳」です。
そう、鼻水の薬だけではないのです。
傷寒論しょうかんろん」と共に東洋医学の古典とされる「金匱要略きんきようりゃく」にも、このように記載されています。

咳逆がいぎゃくして倚息きそくし、臥するを得ざるは小青竜湯之を主る

金匱要略・痰飲咳嗽病篇

咳がでて、寄りかかるように呼吸して横になることができない状態(起坐呼吸)には、小青竜湯がよいと記されています。
まさに、当時の私の咳です。

水っぽい鼻汁、くしゃみ、白色の薄い痰、咳…これらは体表面から寒さが侵入し(風寒束表ふうかんそくひょう)、肺の機能(西洋医学における呼吸だけでなく、水を体全体に行き渡らせる機能も)が失調することによって起きるとされています。水を行き渡らせる機能が落ちることにより、余分な水が溜まる(水飲内停すいいんないてい)ので、鼻水や痰等の分泌過剰となるのです。冷えが関与する為(寒証)、鼻汁や痰の色は薄く、粘度も高くありません。
一方、黄色い鼻汁や痰でネバネバしている場合は熱を伴うもの(熱証)と考えられ、別の処方となります。

小青竜湯は、体を温めて、余分な水を除く作用のある薬です。
逆をいえば、小青竜湯が著効する人は体が冷えていて、体に水分をため込みやすい傾向にあります。
甘い物に目がなく、ビール片手に唐揚げをつついていた(甘い物や脂っこいものは余分な水分を溜め込みます)当時の私に「そりゃあ、治らんわ」とも言いたいです。

実は、鎮咳薬や吸入剤の前に麦門冬湯ばくもんどうとう半夏厚朴湯はんげこうぼくとうも試していました。
今なら「咳→麦門冬湯じゃないのに」と、ツッコミいれるところです。

漢方薬は証の見極めが大事と見聞きしていながら、その重要性を理解していませんでした。
系統だった学習をせず、つい病名で漢方薬を選んでしまっていた頃の話です。

実は先日、こんな話を知人から聞きました。
「ゼイゼイと出る咳に小青竜湯が効いているみたいで、医院でお願いしたんだけど「鼻炎の薬だよ」と言われちゃった。私、間違えてる?」
…“あるある”なのかもしれません。

あの頃のような失敗はなくなりましたが、漢方は奥が深く、
「えっ?そうだったの…」
「知らなかった…」
ということは、今だに沢山あります。
無知を知り、恥じる日々…。
学びは生涯続きます。

「明日死ぬかのように生きよ。 永遠に生きるかのように学べ。」
…マハトマ・ガンディー

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