元気な時にこそ読んでほしい…自分の身体を守るため、医療との付き合い方を考える本2選

薬局から

医師・薬剤師・看護師・理学療法士…、医療関係者による書物には色々なジャンルのものがあります。
健康法であったり、特定の疾患や薬の解説であったり。
その中で、医師目線での病院や医師との関わり合い方について書かれた本をご紹介します。

薬局で患者さんから聞く、診察室での医師とのやりとりは、
「それ、医師せんせい言っちゃう?」
「もうちょっと上手に医師せんせいに言えばいいのに」
「それ言われたら、医師せんせいも辛いよね」
…と、実に様々です。

診察室だけでなく、病院・薬局の中にいる人間と、患者さんやご家族が考える常識には随分と違いがあります。
今回ご紹介する本は、そんな違い=“溝”を埋めてくれる本でもあります。

「開業医の正体 患者、看護師、お金のすべて」(松永正訓著)

新聞の医療コラムで知った小児外科医の先生の著書です。
医師の収入、開業資金等のおカネの話を含めて、結構赤裸々に書かれています。

帯に「「良い医者」とめぐりあうための必読書」と書かれていますが、「良い医者」とめぐりあう為には、患者である私達側も医師の考え方や医療機関の事情を知っておく必要があります。
この本では「医師の考えていること」もわかります。これがわかれば、無用なドクターショッピングをすることもなくなるかと。

医者と患者の関係をよくしていくのは、医師の責任だとぼくは思っている。(中略)
ボールは医師の側にあるかもしれないが、患者家族も医師の説明に説得力があるかどうかよく吟味してほしい。それが自分たちの利益になるはずだ。」

「風邪に抗生物質」問題は、共感と共に、医師目線の考えにも触れて新鮮でした。
「風邪に抗生物質は無用、もしくは過剰医療」と言われ続けている中、それでも風邪の処方箋に抗生物質が記載されている場合、考えられるのは3つかなと思っていました。
①喉の痛み・炎症の原因が、抗生物質が著効する溶連菌等の細菌感染と疑われる場合。
②特徴的な咳等、抗生物質が著効するマイコプラズマ等の細菌感染が疑われる場合。
③患者さんやご家族の強い希望に医師が押し切られた場合。
…ここに、「何かあった場合、“ここまでやったから”(二次的な細菌感染のリスクにまで備えた)と言えるようにするための予防線」だと。
そんな風に言い切れちゃうのは、ご自身もお医者様だからでしょうね。

「医者が教える正しい病院のかかり方」(山本健人著)

●病院に行く前に準備すること
●どの医療機関に受診するか
●医師との付き合い方
●救急車を呼ぶ場合
●癌と言われた時
●薬の知識
●セルフメディケーション(風邪の場合)
…この1冊で全て学べます。
近しい人全てに読んでほしい!と思ったぐらい。

「救急車を呼ぶかどうか迷った時は、呼んでもいい」と著者が考えている理由も、ある意味成程でした。
「救急車の適正使用を呼びかけるべき対象の人は、迷うことなく救急車を呼ぶから」だそうで。
じゃあ、あまり強く救急車の適正使用を世間が言い出すと、本来救急搬送すべき人が遠慮して手遅れになることが増える?
結局、どんなに適正使用を呼びかけても「こんなことで救急車を呼ばないで」という人達には届かない?
…と、いささか悲観的な気持ちにもなりますが、「こんなことで救急車を呼ばないで」という人達も何某かの理由がある訳で、若い頃から正しい健康知識を身につけていれば、「こんなことで救急車を」の判断をしなくて済むのではと、思っています。
学校での「おくすり教育」を大切にしてほしいと思う理由でもあります。(「学校薬剤師と「お薬教室」…かけがえのない自分の命を大切にするために、子ども達に伝えたいこと」)

風邪についての著者の考えにも、熱く共感してしまいました。

風邪が流行る時期になると必ず、 「市販の薬では効かないので、病院の風邪薬をもらいに来ました」という方が多く病院を訪れます。もちろんご希望通り風邪薬(総合感冒薬)を処方しますし、 そのことを非難するつもりはありません。
ただ私は必ず、患者さんに以下の2点を伝えます。
・風邪薬は、市販薬と処方薬では成分にほとんど差がないこと
・風邪薬は風邪を治す薬ではないこと
なぜなら、「その程度の薬だと知っていたら風邪の症状で辛い中わざわざ病院に来なかったのに」という方を減らしたいからです。

私自身、風邪の処方箋を目にして「この程度の薬をもらう為に、しんどい身体引きずって受診して、長い間順番待って、気の毒に…。」と思う時があります。家で市販薬のんで寝てた方が楽だろうに…と。

風邪の受診を批判している訳ではないです。
乳児・基礎疾患のある方は、早めに医師の判断を仰いだ方が良い場合もあります。
インフルエンザやマイコプラズマ肺炎等、既に「ただの風邪」とはいえない状態では医師による処方薬が必要でしょう。
判断に迷った場合も受診した方がいい。でも、その判断基準を知ってほしい。
「ちょっと、喉がおかしいから早めに」と受診しても、その時点ではインフルエンザかマイコプラズマ肺炎なんて、医師にだって判断つかないし、それに備えた薬を出す時期でもありません。最悪な場合、ただの風邪だったのに医院の待合室でインフルエンザをもらってしまった…なんてことも。

判断基準は乳幼児・若者・高齢者・基礎疾患(喘息・心臓病・糖尿病等々…)で、それぞれ違ってきます。自分と家族の身体に状況を知って、判断基準をもっていると、いざという時に役に立つと思います。

最後に

もう一つ、どちらの著者も書かれていることに「名医は後医」という言葉があります。

●皮膚の痒みで受診。塗り薬を貰って3-4日使ったが治らない。心配で別の医師に診てもらい、だしてもらった薬で改善。これからは、こっちの医師で診てもらおう。
●風邪っぽくて受診。「薬を出すから3-4日様子みて」と言われる。治らないので別の医院へ行くと肺炎の診断。最初の医師は肺炎を見落としたに違いない。

…薬局でも、こういった話はよく耳にします。
どちらのケースも前医は「薮医者」で後医は「名医」…と思われがちですが、受診の順番が変われば、立場は逆転します。
医師は最初に可能性の高い疾患の、第一選択される薬を使って治療にあたります。それで治れば良し、治らなければ経過をみて次の手を考えます。
たとえ早めに受診したとしても、1度の受診(医療行為)でスッキリ治る…ことばかりではないのです。逆に「早めに受診して薬のんだから、すぐに治った!」という場合は、軽微な疾患でセルフケアでも改善できたかもしれません。

この辺り…一般の方が抱いている医療への期待と医師らが認識している医療の現実の間にも“溝”を感じます。
どちらの本も、こうした“溝”を埋めてくれるかと思います。

でも…。

「何とかしてほしい」「何とかしてもらえる」と思って受診した、辛い風邪症状・不安な症状を抱える人達に、風邪治療の大前提は言いにくい。
処方せんの内容が市販薬と変わらない薬であったり、昨今の医薬品不足の影響か市販薬よりも効き目の軽い薬であったとしても…。

「前の医師せんせいでエライ目にあったけど、こっちの医師せんせいに変わって良かったわ!」と目をキラキラさせて話してくださる患者さんに「同じ医師に再診しても変わらなかったと思いますよ」とは言いにくい。
(取敢えずかかりつけ医で診てもらってから、専門医に…は別の話です。ここでの話は、同一疾患で同一の診療科の医師をコロコロ変えてしまうケースです。)

勿論、不安材料を医師の診立てで解消することは大切です。全ての受診や転院を「安易だ」と非難しているのではありません。
ですが、予備知識があれば不安材料はグッと減ります。

だからこそ、元気な時に読んでおいて欲しい。
…今回は、そんな本のご紹介でした。

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