“運動”に勝る良薬なし?! 今更ながら「運動脳」を読んでみた

薬局から

「スマホ脳」の著者の本です。本国(スウェーデン)では、「スマホ脳」より売れたそうです。

「スマホ脳」でも著者は運動の大切さに触れていましたが、更に詳しく説明されています。

ADHD(注意欠如・多動症)やうつ病における脳のメカニズムにも触れています。そして運動によってADHDの子供達の集中力が増したり、うつ症状が改善したりすると述べられています


これって、凄いことだと思います。
仕事柄、ADHA治療薬や抗うつ剤が記載された処方箋も扱います。処方されているのは、時に小さなお子さんや学生さんだったりします。

ADHAのお子さんに薬を飲ませると、特有の症状が和らぐことにより、学校生活での軋轢が少なくなり、お子さんのストレスが減るかもしれません。ですが、薬で“完治”できるものではなく、お子さんの為の根本的対策は考えていく必要があります。まして、学校や家庭で“扱いやすい”ように薬を使うのは違うと思います。

SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)、SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)、NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)といった抗うつ薬が登場した時、従来の抗うつ薬に比べて副作用が少なく使いやすいことから、うつ病治療に新しい時代がきたと感じました。
それと同時に、製薬会社を中心とした“うつ病は心の風邪”…等のキャンペーンが始まり、広く病気が周知され、受診の垣根も低くなったと感じます。(その功罪について語るのは、もっと精神科領域の経験値が高い方々に委ねたいと思います…。)
これらの抗うつ薬で劇的に良くなる方がいる一方で、副作用で難儀される方もいらっしゃいます。薬で良くなった後の減薬や退薬(薬を止めること)がうまくいかず、服用が長期に及ぶ方もいらっしゃいます。

私は精神科医でもなければ、精神科領域のスペシャリストでもないので、診断と治療方針に軽々しく口をはさむべきではないのですが、薬剤師という立場上、どうしても使われる薬剤の副作用の方に目が向きがちです。その分、薬の使用に否定的な考えをもってしまうこともあります。
問題行動を学校に指摘されてADHD治療薬を服用したものの生活の向上につながらない、不登校で精神科を受診して抗うつ薬や睡眠導入剤、その他の精神神経系の薬が増えていく…そんなお子さんとそのご家族を薬局で目にすると、これで良いのか、他に方法がなかったのかと思ってしまいます。

もし、薬を使うという選択をする前にできることがあるのなら…。
筆者は、それが「運動」だと述べています。
体調や体質に応じて始めるなら、運動は副作用もありません。試す価値は十分にあります。


こんな簡単にできることが、何故広まらないのか。
筆者は「市場に利益をもたらさないから」と述べています。
薬を使わず、運動で症状が改善することを実証する研究に製薬会社が協力するのは難しいでしょう。
現状の医療保険制度では、精神科医が薬を処方せずに治療するのも経営的に厳しいのかもしれません。
こんなことを言っている私の調剤薬局でのお給料の一部は、そうした思うところのある処方箋でまかなわれているのも事実です。
…難しい問題です。

運動は、脳の老化も防ぐと述べられています。運動により、記憶に関わる海馬の加齢による縮小が抑えられます。むしろ運動によって海馬が大きくなる研究結果も紹介されています。

これも、素晴らしいことだと思います。
認知症治療薬の研究は世界中で行われています。患者数を考えると、画期的な新薬の開発に成功すれば莫大な利益になるでしょう。
高価な新薬に関しては批判的な意見もあるかもしれませんが、介護に関わる費用等の認知症の経済的損失を考えると「どっちが高いか」判断は難しいかもしれません。
そうした治療薬を将来的に使わずにすむ方法が「運動」だといわれています。

さきほどの「海馬がむしろ大きくなった」結果がでた実験での「運動」は心拍数の上がる、ややハードなトレーニングです。しかも30から40分を週に3回。運動が苦手、運動が嫌いな方にはハードルが高いかもしれません。(私はちょっと、無理かも…。)

ですが、少し身体を動かすだけでも効果があるとも述べられています。
集中力の向上等、学習効果を上げる為なら、それで充分のようです。
先ずは、自分が楽しいと思える程度から。
掃除等の家事を意識的にする、座りっぱなしの時間を減らす、散歩に行く…できる範囲で続けることが大事なのだと思います。

さて、我が家の場合…。
“筋肉は裏切らない”が座右の銘だった息子。部活に没頭していた時でも成績が極端に落ちなかったのは、集中して勉強できていたから?…とも思うのですが、運動が学習効果に良い結果をもたらすことを検証するなら、勉強もちゃんとしないとね。
それよりも、脳の老化防止の検証に、夫婦で真剣に運動すべきだと思う今日この頃です。

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