「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。
なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。
今回は、薬剤師の説明で思わぬ誤解を招いた五苓散のお話。
眩暈治療で2回目のご来局患者さん。
出されたお薬を見て、一言。
「副作用がでたって先生に言ったのに、また漢方薬がでてるの??」
…何が起きたのでしょうか?
【初回の処方】 ジフェニドール塩酸塩錠 3錠 1日3回 毎食後 7日分 ツムラ五苓散 7.5g 1日3回 毎食前 7日分
どちらも眩暈に使われる薬です。
ですが、このお薬をのんで口の渇きを感じたとのこと。
そして…。
【2回目の処方】 ツムラ五苓散 7.5g 1日3回 毎食前 7日分
ここで患者さんの先程の一言でした。
患者さんは初回の薬剤師の説明で、口が渇くのは漢方薬のせいだと考えたようです。
そう、初回の薬剤師の説明は・・・
「五苓散は水を出す漢方薬です」
だったのです。
漢方薬が比較的よく使われるケースの一つに“眩暈に五苓散”があります。
眩暈の原因の一つが、水のめぐりが悪くなる「水滞」で、これに五苓散が用いられます。
浮腫みをとる目的でだされることもあり、利尿剤のようなイメージをもっている医療従事者が少なからずいるようです。
それが初回の薬剤師の説明で「水をだす漢方薬」となり、患者さんは「身体の水分が減ったから口が渇く」と思ったそうです。
実は、口渇の副作用と考えられるのは五苓散よりも、一緒にだされたジフェニドール。
念の為、処方元の先生にも報告しましたが「うん、口渇が気になるらしいから、ジフェニドールを抜いたよ。」とのことでした。
患者さんには「誤解を招く説明だったかもしれませんが…」と、改めて五苓散について説明、ご納得いただきました。
五苓散は「水を出す」働きもありますが、正確には「水の偏在を改善する」(水分代謝をコントロールする)漢方薬です。水の過不足がどちらに傾いても用いられます。
その人にとって「丁度良いところ」を得意とする漢方薬では、片方だけの作用や病名での説明では、言葉足らずになってしまうことがあります。
五苓散は水のバランスを整える薬なので、眩暈や浮腫みの他に口渇や下痢、嘔吐にも使われます。
…「異病同治」ですね。
一方、眩暈の原因は「水滞」だけではありません。症状や体質によっては、五苓散以外の漢方薬が使われます。「眩暈に五苓散」が全てではないのです。
…「同病異治」ですね。
調剤薬局での服薬指導は、漢方薬に限らず、処方内容から患者さんの状態を紐解くところから始まります。
何の為に薬を服用するのか、納得感をもって、ご自身の治療に取り組めるよう、お手伝いできれば嬉しいです。
五苓散については「我が家のクスリ箱① 五苓散の使い方」をお読みください。
コメント