新型コロナに○○湯、インフルエンザに○○湯は本当か? …漢方薬選びで大事なのは「病名」ではありません

漢方

コロナ禍当初、漢方薬でできることはないか…と考えていました。
未知のウイルスであっても、患者さんの症状や体質に応じて漢方薬を選択することで、辛い症状に対処できないかと。
発熱で医療機関の受診を断られる人や咳止めと解熱剤だけ出されたホテル療養者の処方箋を見る度にそう思っていました。

あれから3年。
色々な試みがなされています。

報道もされた「柴葛解肌湯さいかつげきとう」は、耳にされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ただ、こちらの処方は悪寒を伴う風邪様症状に用います。
悪寒のない喉の炎症なら「銀翹散ぎんぎょうさん」が良いかもしれませんし、発熱で身体が熱いなら「大青竜湯だいせいりゅうとう」(煎じ薬のみでエキス剤はありません。麻杏甘石湯まきょうかんせきとう越婢加朮湯えっぴかじゅつとうで代用されることが多いです。)を使うこともあります。
感染数日後の咳症状であれば「麦門冬湯ばくもんとうとう」や「竹筎温胆ちくじょうんたんとう」(咳の状態で使い分けられます)等も良いかもしれません。
さらに、その後の長引く倦怠感には「補中益気湯ほちゅうえっきとう」が用いられるかもしれません。
「新型コロナに柴葛解肌湯」という訳ではないのです。

この柴葛解肌湯は、100年前に猛威を振るったスペイン風邪にも使われました。
今でいうインフルエンザですね。

インフルエンザ(初期)に効能がある漢方薬に「麻黄湯まおうとう」があります。抗インフルエンザ薬の副作用が問題視された時に注目されました。
強い悪寒や節々の痛み(インフルエンザの典型的症状の一つ)がある場合に良く効きますが、既に発汗している場合やいわゆる虚弱な方には不向きです。
5日分程処方されるのを目にしますが、発汗後は服用をやめてよいです。抗インフルエンザ薬のように飲みきらなくてはいけない薬ではありません。
新型コロナと同様、「インフルエンザには麻黄湯」という訳ではありません。
症状に応じて様々な方剤が選択肢として挙げられます。

漢方薬選びで大事なのは「証」(一人一人の症状や体質)であって、「病名」ではないのです。

柴葛解肌湯も麻黄湯も一般用医薬品なので、受診なしで入手できます。(ただし、一般用医薬品の麻黄湯にはインフルエンザの効能はありません。また、医療用より少ない分量になっていることが多いです。)
柴葛解肌湯は汎用性の高い薬ですが、お値段は高めです。
麻黄湯は、服用する人や症状を選ぶ必要があります。副作用の出やすい漢方薬の一つです。

個人的には、セルフメディケーションとして家庭で常備するなら、葛根湯と銀翹散で充分かなと思っています。
新型コロナだろうと、インフルエンザだろうと、ただの風邪であろうと、初期の症状には大差ありません。

悪寒を伴う場合は葛根湯、熱感がある場合(特に喉の痛みには)銀翹散。
発熱が辛ければアセトアミノフェン製剤を。
脱水予防の水分補給を忘れずに。
…これだけの備えがあれば、持病等のリスク因子がない限り、慌てて(特に夜中や休日に)受診する必要はなくなるのではと思います。
勿論、必要に応じて受診したり、薬剤師・登録販売者のアドバイスを受けることも大切です。

余談ですが、銀翹散と柴葛解肌湯は医療用医薬品にはない漢方薬です。
銀翹散を医療用の漢方薬で代用するのは難しいのですが、柴葛解肌湯は「葛根湯」と「小柴胡加桔梗石膏」で代用されます。
冒頭の新型コロナウイルス感染症での有用性の報告も、こちらの代用です。

これが全ての原因ではないのですが、医療用の葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏は非常に品薄になっています。メーカーの出荷制限がかけられていて、使用実績の少ない薬局では注文しても納品されません。
この2つの方剤以外にも、新型コロナウイルス感染症の諸症状に用いられだした方剤(麦門冬湯・滋陰至宝湯等)が入手しづらくなっています。
さらに、需要に応じてメーカーが生産ラインを変えているからか、新型コロナと無関係と思われる方剤(防風通聖散・麻子仁丸等)の入手も危ういです。

ここ数年、医薬品の流通が不安定であることが問題になっています。ですが、漢方薬までもがそうなるとは思いもよらなかったです。

「テレビでやっていたから、医師せんせいにお願いしてみた」
「今は困っていないけれど、念の為もらっておこう。」
「(美容目的だけど)健康保険の方が安いから。」
…どうか、ご遠慮ください。

適切な使用で、本当に必要な人へ薬が届きますように。

コメント

  1. 今ってホント漢方薬、手に入りにくいですよね。。。
    先日、桔梗湯の処方箋書いてもらったけど、結局10日分しか手に入りませんでした。。。

    • 薬剤師A 薬剤師A より:

      ありがとうございます!
      本当に手に入らないですよね😭
      勤務先の薬局でも、折角来てくださった患者さんに「うちでは手に入らないので…」と他の薬局を紹介することもあります😞