活字中毒者がスマホを持つと…? 〜「スマホ脳」を読んでみた〜

日々の暮らし

突然ですが、私は自他共に認める「活字中毒」です。
本に夢中でやらかした数々の所業に「他」から呆れられ、「自」も重々覚えがあるからであります。
とにかく文字を読んでいるとご機嫌・・・というか、文字が書いているものが傍にないと落ち着きません。
電車に乗るのに読む本がない・・・のが一番嫌なシチュエーションで、行きの電車で持っていた本を読み終えてしまったら、帰りの電車に乗る前に本屋へ行き、本を買ってからでないと電車に乗れません。
本屋がなければ、駅の売店で目ぼしい読み物がないか物色し、それもなければ辺りに置いている無料のパンフレット(旅行・就職・飲食店等々の)をいただいていました。
そんな事にならないように、文庫本を2~3冊携帯していたこともありました。

その電車、かつては私のような(かどうかは定かではないけど)本を読む人があちこちにいましたが、今では中々お目にかかれなくなりました。
理由は、ご推察の通り・・・
スマホ
です。

かく言う私もその一人・・・。
元来アナログ(これが一番大きい)、ゲームに興味がない(というか、楽しむスキルがない)、SNSって何だそりゃ・・・な私がスマホを持つようになったのは5年程前。
持ってみると便利な代物。
気軽に調べものはできるし、これを持っていれば活字に困らない。本屋で本を探すために電車に乗り遅れることもなくなりました。だって、エンドレスに記事でも何でも読んでいられるから。

でも、確実に1か月で読む本の冊数が減りました。
しかも、スマホでページをめくり、小刻みな情報を目で追う事が多くなったせいか、読む本も長編より短編を好むようになってしまいました。
そして、こんな私でもできるミニゲームなんかもあって、気がつけば思いの外時間がたってしまっていることも。

まずい、まずい、息子に偉そうな事言えないよね…と思いつつ止められない中、目にした本が、こちらの本↓です。

「スマホ脳」 アンデシュ・ハンセン著 新潮新書
「スマホ脳」(アンデシュ・ハンセン著 新潮新書)

著者はスウェーデンの精神科医で、少し前に話題となりベストセラーに。当時はどの本屋も店頭に平積み、図書館の予約は2〜3桁の順番待ち。でも、私は本屋でパラパラとページをめくって終わりにしていました。

「買ってはいけない…」、「食べてはいけない…」等の「〇〇してはいけない」と書き出す雑誌や本がちょっと苦手な私、「スマホ脳」にも同じ気配を感じて敬遠していました。そういう類のものって、極論が多い気がするからです。「それだけやめて、どうなるの?」と…。

「スマホ脳」の帯のキャッチコピーは「スティーブ・ジョブズは我が子になぜiPadを触らせなかったのか」というドキッとさせる文言。いやいや、そういう極端な話は止めようよ…と思いつつ、結局読んでみようかと。やっぱり気になるスマホの影響…。

という訳で、ベストセラーから一年越しの読後感。超個人的(ここ強調)感想です。

「人間の脳はデジタル社会に適応していない」

人類の脳は10万年前から変わっていない・・・と著者は言います。
その当時は自然災害・疾病・ 争い等、生命を脅かす要因が沢山あり寿命も短かった、感情や集中力(よりも注意散漫で周囲の危険を常に確認している)は、そこを良く抜くための脳の働きであると。
確かに人類の長い歴史の中では、死と隣り合わせであった時代が大半を占めることでしょう。
そして、テクノロジーが発展して豊かになってきたのは、ここ数千年から数百年のことです。
しかも、IT関連に限れば、ここ数十年のことではないでしょうか。
黒電話しかなかった幼少期の私、就職したてで会社からポケベルを支給された私だって、当時はこんな世界が待っているなんて思いもしていなかったです。10万年前の脳との比較はともかくとしても、この著しい変化に順応できないのは至極もっともなことでしょう。

加えて、昨今のストレスの多い社会も長い人類の歴史からすれば、ごく短期間の著しい変化です。
うつ病や双極性障害等の精神疾患も、生き延びる為に脳の働きが引き起こした結果でもあり、スマホの存在がそれに拍車をかけていると説かれています。
・・・成程。

その他、睡眠障害・うつ・記憶力や集中力・依存…等における脳のメカニズムも詳しく書かれています。
スマホの影響だけでない、脳について知る1冊です。「○○してはいけない」系と思い込み、敬遠したままで終わらなくて良かったです。

「スマホは私たちの最新のドラッグである」

学校薬剤師の世界においても「依存症」は重要な課題です。お薬教室や薬物乱用防止教室等、薬の適正使用や薬物乱用の啓蒙活動を行う際に欠かせないワードです。
その際の「依存症」の対象となるのは、大麻や覚せい剤等の乱用薬物、睡眠薬・風邪薬等の医薬品、酒、タバコ・・・ですが、近年はゲームやスマホの依存についても問題視されるようになってきました。

著者もこう述べていいます。
「若者のアルコールは禁止しているのに、何故スマホは禁止しないのか」と。

依存の対象が何であれ、脳の中で起きている現象は同じです。
人は美味しい食事や良い音楽等の刺激を受けると、脳内でドーパミンと呼ばれる神経伝達物質を放出します。それにより、心地よさを感じます。
また、課題や義務でストレスが発生し、努力することで成功してストレスが解消した時も、ドーパミンにより達成感が得られます。
そして、薬物や酒・たばこ、ゲーム・ギャンブル・買い物などの行為でもドーパミンは放出されます。
このドーパミンは人が前向きに生きていくのに必要な化学伝達物質ですが、誤った方法でドーパミンが放出されてしまい、それにより心地よさや達成感を得ようとしてしまうのが依存症です
新型コロナ流行下でストレス過多となった今、多くの専門家は依存症が増える危惧を口にされています。

勿論、スマホもドーパミンを増やします。
スマホは、知識の宝庫でもあります。
そもそも「進化の観点から見れば、人間が知識を渇望するのは不思議なことではない」と著者は述べています。太古の昔、周囲を良く知ることが生き延びる可能性を高めることにつながっていた訳ですから。
ページをめくるごとに情報が飛び込んでくるスマホに夢中になるのは至極道理で。
さらに、人の脳は「新しいもの」の他に「かもしれない(という期待)」も大好きだと、説明されています。長い目でみれば損をするとわかっているギャンブルが依存を引き起こしやすいのも、この特性の故でしょう。
大事な情報があるかもしれない・・・。
SNSで「いいね」がついているかもしれない・・・。
そして「ちょっと見るだけ」とスマホを手にとり、気づけば日付が変わっている。
・・・「あるある」ですね。

このSNSにも注意が必要です。
この本の中で「SNSを熱心に利用している人たちのほうが孤独を感じている」「フェイスブックに時間を使うほど幸福感が減っている」という調査結果が紹介されています。
SNSで社交の場が広がるはずなのに、何故そうなるのでしょう。
これを著者は「社会的地位は精神の健康のために重要」であることから説明されています。
SNSが登場するまで、つながりをもつ人の数は限られていました。その中で自分の社会的地位を確認してきた訳です。ですが、SNSでは全世界の人々が相手となるといっても過言ではありません。SNSに沢山時間を費やす女子高生程、自分の容姿に自信をなくすようです。

これ、わかります。アナログなくせに何を思ったかブログを始めた私、そして中医学の勉強で必要に迫られてフェイスブックのアカウントを取得した私は、ブログでキラキラしている(と見える)人達、為になる事を沢山発信する人達や勉強熱心な薬剤師達の存在を知りました。
正直言うと、落ち込み、焦燥感にかられたものです。「自分は今まで何をしてきたのか・・・」と。

勿論、SNSで上手に世界を広げる人もいます。自分自身も積極的に発信している人達が多いようです。
実は多くの人は、発信することなく閲覧のみ(読んでいるだけ)だそうです。私もですが。
そうして、多くの他者と比べることにより自信をなくし、孤独を感じ、幸福感が得られなくなるのかもしれません。
・・・意外な事実です。

対抗策は・・・運動

さて「○○してはいけない」系でないこの本は、「スマホは絶対にダメだ!(若年層は制限すべきと説かれていますが)」とか「デジタルが発達する前の暮らしを!」等と主張している訳ではありません。むしろ、今の世の中でそれは非現実的だとも書かれています。

では、どうしていけば良いのか?
その答えは「運動」であると説明されています。

近年、運動が集中力や記憶力を高めたり、ストレスを緩和する事が知られてきました。適度な運動が認知機能の低下を防ぐという報告もなされています。
そして、スマホで影響を受けた脳にも運動は効果的です。
逆を言えば、新型コロナの影響で運動量が減り、スマホやパソコンに向かう時間が増えた今、脳はかなりの影響を受けているといえるかもしれません。

脳だけの話をすると、週に2時間 (週3回45分) ぐらいの心拍数があがる(息が切れて汗をかく)運動が良いと書かれていました。逆にそれ以上やっても効果は頭打ちだそうです。(あくまで脳だけの話です。)
運動の内容(散歩・ヨガ・ランニング・筋トレ・・・等々)は何でも良く、少しの時間でもそれなりの効果はあるとの事です。学校で休み時間(6分程)にテレビ体操をしたクラスで集中力があがった・・・という話も紹介されていました。
これなら私でも出来る!・・・かな。

最後に・・・「スマホ脳」を読んで、スマホを漢方で考えてみた

さて、スマホを漢方の視点から考えてみました。

スマホの使い過ぎで興奮状態が続くということは、陰陽で考えると「陽」が盛んになってしまった状態といえます。(「中医学 事始め②」参照)

また、身体を構成する「けつ」「すい津液しんえき)」は「陰」に属し、同じく「陰」に属する夜に養われるといわれています。スマホで夜ふかしが続いたり、睡眠の質が低下するとそれらが補えなくなり、「血虚けっきょ」「陰虚いんきょ」の状態となります。「血虚」「陰虚」になると目のトラブルや不眠、不安感等の症状があらわれます。(「中医学 事始め③」参照)

陰陽、気血水のバランスを保つのが漢方における養生です。
クールダウンして「陰」を補うべくスマホを使わない時間を作る、「血」「水(津液)」を養う睡眠の質を高めるため夜更けのスマホの使用を避けることが大事になってくると思います。
この本でも、ベッドにスマホを持ち込まない、持ち込むならマナーモードにする・・・ことがすすめられていました。マナーモードにして音がでなくても、脳は「スマホが傍にある」だけで何かが起きることを期待して興奮状態になるようですが・・・。

そして、著者は冒頭でこうも述べています。
「私たちは人間の基本設定を理解し、デジタル社会から受ける影響を認識しなくてはいけない」と。

自分の身体を知り、デジタル社会の功罪を知り、そして心身共に健康でいられるためには何が必要なのかを考える・・・当たり前ともいえる事を科学的に教えてくれた一冊でした。
興味のある方は、今からでも是非・・・。

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