「漢方が好き!」と言いながら、若い頃は雑多な知識を寄せ集める事しかできず、恥ずかしい失敗談は数知れず。
私に限らず、一般の医療従事者(医師も含め)は漢方を勉強する機会が、西洋医学に比べて圧倒的に少ないものです。なので、漢方家の方からすれば「えっ??」と思われるようなエピソードも数知れず。
今回は知名度抜群の葛根湯のお話です。
彼の人のある日の出来事
●痩せ型
●汗かき
●疲れやすく、風邪をひきやすい
●胃腸が弱い
…そう、少し漢方をかじったことのある人ならピンとくる「桂枝湯証」(桂枝湯があっている体質や症状)の人です。
彼の人が言うには
「ゾクゾクと寒気がきた時に」
「隣でゴホゴホ咳をされて、“風邪がうつるんじゃないか”と不安な時に」
桂枝湯をのんでおいたら、大丈夫!ひどくならない!
…そうで。
そんな彼の人が一言。
「あれ?桂枝湯ないの??」
…しまった、桂枝湯を切らしていた。
彼の人は“気”(気持ち)で左右される人でもあります。
そこで、「これでも、のんでおいて」と葛根湯を渡しました。
「同じように使えて、効きがいいから」と噛んで含めて。(何せ気持ちで動く人なので。)
すると…。
「おかいしいな。何だか凄い脱力感。」と。

何が起きた?
桂枝湯も葛根湯も外からくる寒さのトラブル(表寒)を追い払う方剤です。
風邪の初期に用いられます。(「我が家のクスリ箱⑤ 葛根湯の使い方」・「我が家のクスリ箱⑨(最終回) それぞれのレスキュー漢方薬」)
桂枝湯に含まれる生薬は、桂皮・芍薬・生姜・大棗・甘草です。
それに葛根・麻黄が加わったのが葛根湯です。
桂枝湯がじんわり発汗させて寒邪を払うのに対して、葛根湯はしっかり発汗させて寒邪を払います。
既に発汗している人や胃腸虚弱な人に、葛根湯は要注意。
恐らく一番メジャーな漢方薬である葛根湯、身体に優しいと思われがちですが、意外にトラブルは少なくないです。
動悸・不眠・胃腸障害…。
やはり“証”(体質と症状)は大事です。
彼の人も、発汗でちょっとした虚脱状態になったようで。
普段から汗ばむことが多い人に、元々胃腸が弱い人に、やはり葛根湯は不向きだったようです。
最後に
彼の人は、我が夫。
いつも色々ごめんなさい(汗)。
…嘘ついたって訳ではないのです。
「桂枝湯があれば、風邪の手前で治る」と信じている人に「ないよ」と言えず…。
気持ちで動く人が「風邪っぽいから桂枝湯のむ」と言っているのに、「ないよ」と言えず…。
で、「同じように使えて、効きがいいから」と噛んで含めて(気持ちで動く人なので)渡したのですが…。
せめて汗の出方を確認すべきだったかな。
気持ちを動かす為だけの葛根湯なら、生姜湯にシナモンでも良かったかな。
…相も変わらず、医薬品の供給状態は溜息つくばかり。
咳止めがないから、麦門冬湯。
→咳=麦門冬湯じゃないって。案の定、「効かない」と。
便秘の麻子仁丸が不足となり、桃核承気湯。
→高齢者にそれは…。案の定、即刻中止。
…こんな話に出くわす度に、自分のしくじりを思い出します。
奇しくもまた、漢方薬の出荷調整の報が。とあるメーカーの、とある方剤。
どうなることやら。
それでも、セルフケアにつながる漢方の知恵、薬局業務で見聞きしにくい漢方薬の知識をお伝えし続けたいと思います。

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