「漢方薬で子づくり」は本当か

漢方

職業柄か、街でネットで“子宝漢方相談”・“漢方で不妊治療”…をよく目にします。
今回は「妊活と漢方薬」について、私見多めですがお話したいと思います。

「不妊」とは、妊娠を望む健康な男女が避妊をしないで性交をしているにもかかわらず、一定期間妊娠しないものをいいます。日本産科婦人科学会では、この「一定期間」について「1年というのが一般的である」と定義しています。

日本産婦人科学会

妊活で漢方薬ができることは沢山あります。
●男女共に、今ある不調を改善することで妊娠に適した身体づくりが可能です。
●西洋医学における不妊治療の副作用の軽減が期待できます。
●体外受精において、卵胞の発育や着床に良い影響が期待できます。
そう、漢方薬と妊活は相性が良いのです。

それでも敢えて言いたい…。
「漢方薬が妊娠させる訳ではない!」
…と。

漢方薬は妊娠しやすい体質づくりを得意としますが、不妊の原因が機能的なものでなく、卵管の閉塞といった器質的なものであれば漢方薬だけの妊娠は期待できません。

不妊の原因は様々です。その原因を探るために先ずは婦人科受診をした方がいい。受診して自分の身体の状態がわかった上で、漢方薬を選ぶのも良いでしょう。
不妊の約1割は原因不明です。西洋医学的なアプローチが上手くいかない時、東洋医学的なアプローチが上手くいくこともあります。

心配なのは、色々な選択肢を知らずに漢方薬に頼ってしまうことです。
婦人科に行くことへのためらい、不妊治療への恐れ、生殖補助医療への誤解が漢方薬への期待となってしまったら…。
不妊治療は、ある意味時間との闘いです。
卵子を若返らせることは、現代の医療では不可能なのです。

女性に排卵がなかったり、子宮内膜症を合併していたり、過去に骨盤腹膜炎などにかかったことがあったりすると妊娠しにくいことが分かっています。このような場合は、上記の定義を満たさなくても「不妊かもしれない」と考えて検査や治療に踏み切った方が良いこともあります。また、男女とも加齢により妊娠が起こりにくくなることが知られており、治療を先送りすることで成果が下がるリスクを考慮すると、一定期間を待たないですぐに治療したほうが効果的である場合もあります。
不妊のカップルは約10組に1組と言われていますが、近年、妊娠を考える年齢が上昇していることもあり、この割合はもっと高いとも言われています。

日本産婦人科学会

人は自分が信じたい情報に偏りがちです。
そして、ネットでは「できる」ことが強調されがち。
「喜びの声」に消されてしまう悲しみや諦めの声が気になるのは、私が苦い経験をもつからかもしれません。

妊娠そして出産には複雑な過程があります。
だからこそ、一つ一つ過程をクリアして誕生した命は奇跡の結晶であり、かけがえのない存在なのだと思います。
子供が複数いる家族も…。
ひとりっ子の家族も…。
夫婦ふたりの家族も…。
皆、かけがえのない存在。
どんな選択肢をしても、どんな結果となっていても、皆が笑顔で過ごせますように。

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